何も死守しない普通の一日｜リアクション

何も死守しない普通の一日

　古い町並みに特徴がある参道商店街を御剣刀が単独で行動していた。さっぱりとした白い長袖シャツに黒いジーンズを履いている。肩には竹刀袋を掛けていて、時折、鋭い視線を周囲に飛ばした。
「異常は見られないか」
　厳しい表情が素に戻る。手には舟を模した器があり、中には大粒のたこ焼きがぎっしりと詰まっていた。添えられた爪楊枝で刺して一口にした。白い煙を吐きながらもしっかりと味わう。食べ始めると手が止まらない。次々と口の中に押し込んでいった。
　涼しい風が顔に吹き付けて目が優しくなる。空を見上げればどこまでも青くて果てがない。
「いい天気だ」
　刀は空に微笑みかける。突然、子犬のように鼻をひくひくと動かした。
「次はたい焼きか」
　目にした店舗に駆け寄った。空になった器は近くのゴミ箱に入れた。刀は掲げてあるメニューに目をやって思案顔となる。結局は端から順に全ての種類を注文した。
　パンパンに膨らんだ紙袋を熱そうに持ちながら一匹目に齧り付く。中の餡の熱さに口をパクパクとさせた。
　全てを平らげた刀は腹の辺りを手で摩る。少し物足りないような顔をして目に付いた和菓子屋で饅頭を買い入れた。
「猫がいるな」
　数メートル先をサバトラ柄の猫が悠々と歩いていた。人を怖がる素振りも見せない。刀はジーンズのポケットに手を突っ込んだ。取り出したビニールの小袋には数本の煮干しが入っていた。
　猫は横手の路地へと曲がる。刀は速足で追い掛けた。
「ほら、煮干しだ。欲しいならやるぞ」
　立った状態で一本の煮干しを摘まんで適当に振る。猫は歩みを止めて振り返った。刀の手に合わせて顔が動く。
「ほら、こっちだ」
　しゃがんだ刀は煮干しを前に突き出した。猫はそろりと近づいて鼻を近づけ、饅頭の入った紙袋に前脚を伸ばす。
「おっと、これは俺の分だ」
　ひょいと紙袋を持ち上げると、猫は諦めた様子で煮干しに齧り付いた。その様子を見ながら刀は饅頭を口に運ぶ。
　何事もない穏やかな時間が流れていった。