寝子島☆蒸気と帝都の浪漫譚！｜リアクション

寝子島☆蒸気と帝都の浪漫譚！

「寝子島を豊かにするのを邪魔する奴らはぶっちめなのだ！」
　真央が鼻息荒く石を投げていると、尚輝は無事路地へと逃げ込んだ。男たちも尚輝を見失ったようでその場から立ち去る。一息ついた真央に「おつかれさま」と声をかける記士郎。彼はさりげなく真央の傍で警護して様子を伺ってもいたらしい。
「とりあえず、リッカルドちゃんに報告したほうが良いのだ？」
「そうですが面識が無い私たちが行っても……」
　二人はとりあえずお店の人から食料を受け取ると、どうやってリッカルドへ報告しようか悩みつつも一旦研究所へ戻るのだった。

　捨て置かれた蒸気バイクが気になったのか、神薙焔は赤毛を揺らしながらバイクへと歩み寄った。
（かわいそうに……。壊れたのなら、直せば使えるわよ）
　焔はそう言って蒸気バイクを起こし……そこで、見覚えのある名前に気が付いた。フレームの一部に刻まれた【五十嵐研究所】の名に、焔は目を見開く。載っていた人物が誰か何となく察した彼女は表情を険しくした。
（そんな人が壊れたまま乗り捨てるなんて非常事態に違いないわね）
　落ち着いて修理できる場所まで押していこうか、など考えていると女学生の都と由貴奈が通りかかった。
　２人は騒いでいる人の声から、研究者の五十嵐尚輝が怪しい男たちに追われているのを知った。その男たちの正体はわからないが、騒動の匂いがする。普段の都ならば、スルーするのだが……。
（せっかくのスチパンワールドだしの、面倒事にかかわってくスタンスってのも悪くないかもしれん。でも、第三者ポジかなぁ）
　一方の由貴奈はなんとなくかっこいいな、と思った蒸気バイクに目が釘付けである。彼女は焔が押している蒸気バイクを見つつ
（ここでは、乗り物ひとつにもオーバーテクノロジーな蒸気機関が使われてるっぽいねぇ。技術屋志望としては１から解体してみたいもんだね）
　なんて考えてしまった。察したのか焔は慌てて「ぶ、分解しちゃだめですからね？」なんて言ってしまう。
　それに苦笑しながら、都は焔へのんびりと声をかける。
「ねぇ、それ……修理すれば動ける？」
「ええ。詳しいことはよく見てみないと分からないけど、まだ使えるはずよ」
　焔がブレーキなどをチェックしつつ答えれば、都は辺りを見渡して
「近くにジャンク屋とかあったらいけるんじゃないかな？」
　と小声で提案する。焔は
「予備部品や工具はここにあるわ。ちょっと道の端っこにでもよって修理するわよ」
　と積んであった物を使って作業を始めた。焔は厳格な家庭で育ったお嬢様で、理工系の学校に入る事を許されなかった。故に独学で学んでいるのだがその知識と技術が活かされた形となる。
　その慣れた様子に都と由貴奈は「ほぅ～」と感嘆の息を漏らす。焔は「蒸気圧よし、制動機よし」と確認し、暫くすればエンジンがかかるように。
「やったっ！　これで動くね！」
「持ち主がどこに行ったか解らないし、これを使って捜してみようかしら……」
　都がぱっ、と明るい顔になり、焔は思案しつつ蒸気バイクに触れる。実を言うと、都もこの蒸気バイクに乗って情報を集めようと考えていて、都と顔を見合わせる。何がどうなっているのか、情報が足りない。
「そうね。１人で行動するよりも」
「２人で行動したほうがよさそうだね」
　都と焔は蒸気バイクを交代で運転しつつ、情報収集から始める事にした。が、由貴奈は気になる事があった。
「そのバイクが捨て置かれたって事はよっぽどの事があったって事だよねぇ。持ち主、案外近くにいるかもよ？」
　私はこの辺りを探すよ、と由貴奈は別行動を取る、と宣言する。３人はとりあえずまた会ったら情報交換をする、という事にした。その時だ。黒髪の令嬢がやってきたのは。

　その少し前。カフェーでは海軍の軍服を着崩した男がコーヒーを飲んでいた。その傍にいた若者２人も同じ海軍兵のようだ。
「ここは平和っすね……」
　サンドイッチにかじりついて呟くのは、須崎蒼志少尉。それに苦笑したのは呉井陽太中尉だった。彼は新聞を広げ表情を曇らせる。
「でも、噂では最近よく話題になる【ファルコ窃盗団】の被害は無視できないかもよ。今月に入って３件目だってさ」
「正体が何者かはわからんから警察としても手が出しづらいらしいねん。ま、場合によっては軍の関係者が被害にあう可能性もあるやろけどワシらが襲われる事は無いやろ」
　笑いながら答えたのは、牛瀬巧大尉。彼はコーヒーを飲み干すとカップを置き、ちらり、と店内を目だけで見渡す。

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寝子島☆蒸気と帝都の浪漫譚！

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