フラッシュ・モブやろうぜ！｜リアクション

フラッシュ・モブやろうぜ！

♪Oh yay 寝子饅頭
個性派パッケージ寝子饅頭
俺までサンマ色に染まっちまうぜ
「このサンマは…期間限定だってぇ！？」

　あらかじめ用意していたリボンを振りながら、翠響が華麗に舞った。
（ボールやクラブは無理だけど、これなら安全だし、場も華やかになるわよね！）
　瑠樹はお尻をふりふりしながら、女性層を虜にしてゆく。
　一緒に踊る鴻は、いつの間にかサンマさんのかぶりものを装着していた。
（着ないつもりだったのに、瑠樹に頼まれたんじゃなあ）
　サンマさんと化した鴻に、瑠樹はお尻を当てる。
「ふふ、楽しいなあ」
　瑠樹のほんわかオーラにつられ、鴻も、周りにいた通行人たちもふにゃりと破顔してゆく。
　ろっこん「ゆるゆる和みと恩恵の輪」が発動したようだ。
「ほんと楽しいな……あ！？」　
　鴻は次第に力の入らなくなる自分の足を二度見する。瑠樹のろっこんに当てられ過ぎたのが原因だ。
「ちょ、ま、まだ……まだ終わらんぞおおおお！」

　フラッシュ・モブが始まり、自分の役目に気を取られていた8人。
　だから誰も気づかなかった。
　遅れてやって来た10人目の存在に。

「フラッシュモブ～？　ハン！　俺様にかかればサンマ野郎の10倍は稼げるぜ！」
　木陰にいるのはサンマさんと同じ魚のシルエット。しかしサンマよりもっとふくよかだ。
「サンマ野郎がフラッシュモブをすると聞いて冷やかしに来てやったぜ！」
　そう。彼が着ているのはサンマさんの着ぐるみではなく、自前の黒マグロぐるみ。
　サンマさんをライバルと敵視している黒マグロは、『打倒サンマさん』を目標に日々邁進していた。
　そんなマグロにとって、今回は絶好のチャンスなのだ。
「軟弱なサンマよりも王道で美味しいマグロの方がこの寝子島にふさわしい！　この黒マグロ様が手伝ってやろう、グハハ！」
　もちろん、マグロにはサンマさん主催のフラッシュ・モブを手伝おうという気はさらさらない。
　むしろ、この期にサンマさんのポジションを奪ってしまおうと云う魂胆だ。
　一応フラッシュ・モブメンバーとなっているマグロがシーサイドに到着した時には、辺りには既に人だかりが出来ていた。
「さあ、本当のフラッシュ・モブはここからだぜ！」
　冷凍マグロのような死んだ目を光らせて、マグロは人混みの中へと歩いていった。

　フラッシュ・モブの風景を撮影していた修。
　その目に、サンマさんより気持ちやや太めの着ぐるみが人混みに消えゆく姿が映った。
（ん？　サンマさん？）
　人混みを掻き分け、カメラを回しながらついてゆく。すると、そこには……。

「寝子島をよろしく！」
「あんな軟弱野郎と踊ってないで俺様と踊ろうぜ！」
「お、いいモノ食ってるじゃねえか！　その饅頭、黒砂糖の上品な甘味が最高の寝子島名物だぜ」

　サンマさんと限りなく近くて遠い何者かが、集まって来たお客（特に女性）にすり寄っていたのだ。
　踊っていた3人も、配布係の4人も、異変に気づき始めた。
　気づいていないのは大音量で歌っている正敏くらいだろうか。
「な、なんなのだあれは？　太ってるのだ死んだ目なのだ」
「台本になかったわよね、こんなの」
「あれがサンマさん！　……ではないようですね」
　3人娘は集まって口々に相談し始める。
「あいつ……何者なんだ？　ふにゃあ」
「色々大丈夫ですか鴻さん」
　脱力した鴻を支えながら、刀も不審そうにマグロを見ている。
　と、その横を凄い速度で誰かが駆け抜けていった。