フラッシュ・モブやろうぜ！｜リアクション

フラッシュ・モブやろうぜ！

　あやめサンマと刀サンマからそう遠くないところで、もう一つの人だかりができている。
　こちらは何故か男性の方が多く、スマホで何やら写真を撮っているようだった。
　ウッドチェアに座り、パラソルを差しながら優雅にお茶を楽しんでいるのは、美脚の弓弦サンマだ。
　どうやら男性のお目当てはこの長い足らしい。
「このお饅頭とても美味しいんです。そこのあなた、おひとついかが？　お茶も用意してますよ」
　その傍では、真央がお手製のビラを巻きながら褌をひるがえし奔走していた。
「寝子島サンマ、寝子島サンマ、サンマさんは寝子島観光大使としてお土産と水褌の普及に努めてるのだ！」
「サンマさん、褌なんてつけてたか？」
　観客の素朴なひとことも、真央は聞き逃さない。
「これからつけて貰うのだ！　寝子島発フンドシスト行きなのだ！　寝子島の青い海でフンドシストビーチを実現しましょうなのだ！」
　唐突に渡された褌に首をかしげながらも、観客たちは饅頭へと手を伸ばし始めた。
　それが次第に、『真央サンマから貰った褌をつけて弓弦サンマと記念撮影』をする列へと変わっていく。
「はいはいまだ褌を貰ってないのは誰なのだー！？」
「お饅頭を持って、食べて！　はいチーズ、です」
　予想外の展開にもコミカルに対応するふたりだが、困ったのは通行人に紛れていた正敏と翠響だ。
「いつの間にこんなことになってたの！？」
「いいじゃねえか、盛況ってことでよ！」
　大人しく列に並ばざるを得なくなり、翠響が慌てだす。前で褌を配っている真央と目が合ったのだ。
「翠響ちゃんもやっぱり褌欲しいのだ！？」
「うう……このままだとあたしたちも褌をつけなきゃいけなくなるのに……」
「なに、楽しいじゃねえか！　折角だから楽しもうぜ！」
　むしろ隣の正敏は乗り気だ。
「こ、こういう楽しみ方で合ってるのかな」
　そうこうしているうちにふたりの番になった。
　真央から褌を渡され、図解を見ながらそれぞれ服の上に巻きつける。
　正敏はきっちりとお尻の方まで布を巻いたが、翠響は恥ずかしいので前に布を当てただけだ。
「まあ！　良く似合ってますよ」
「だろー？　男気があがっちまうなあ！　翠響ちゃんも巻けばいいのになあ」
「は、早く写真撮って！」
　弓弦を真ん中に、3人はお饅頭を食べながら写真をとった。後ろで真央もちゃっかり見切れている。
　写真を撮り終わったあと、一口で饅頭を食べ終わった正敏は大げさなリアクションをとった。
「うおおおお！　なんだこいつは！　美味すぎる！」
　それに負けじと、翠響も声を張る。
「ほんと、何だか美味しすぎて、身体が勝手に……」
　翠響は人がいない場所を見計らい、新体操で鍛えたバック転を披露した。
　観客が翠響のアクロバットに気を取られているすきに、正敏は弓弦の後ろに用意していたアンプにギターをつなげ、一瞬でサンマさんのかぶりものを身につけた。
「俺も美味すぎて、思わず歌い出したくなっちまった！」
　ジャン、と景気良くギターを鳴らす。その音に、少し遠くにいた鴻と瑠樹も気づいた。
「合図だぞ、瑠樹」
「分かってるよ～」
　貰った饅頭を頬張った瑠樹は、へにゃりと笑った。
「おーいしーい！」
「ほんとだ、こいつはうまいぜ！」
　そして通行人の3人は、正敏の歌に合わせて踊り始めた。