ダイナミック・ザ・フツウ｜リアクション

ダイナミック・ザ・フツウ

●●●ダイナミック・ザ・トウコー●●●
　ある生徒は忍者の如く壁走りをしながら、ある生徒はロケットエンジンを蒸かしながら登校する。
　遅刻の時間になるまで残り僅かな時間を走るメルに飛ぶ蒼志。
　メルも直線状に寝子高を目指す最中、通りを横切る出前のバイクを跳び箱の要領で突破する。

「おっと、朝ご飯いただきデース！」
「…盗難？」

　突破するに収まらずに浮いたピザをカッティングし、1ピースを拝借した。
　横目で見ていた蒼志は疑問を呈し、メルと同じ速度で屋根を飛ぶ。
　それが耳に入ったメルは片目を閉じて人差し指を口元に当てて蒼志を見る。

「ジャパニーズ、タナボター！」
「…棚牡丹なら、仕方ない」

　メルの言い訳が通用したのか、蒼志は納得の表情を浮かべる。
　ピザを食べ終えた後、同じ要領で蕎麦を拝借するメルは蒼志にも分ける。
　走りながらも律儀にいただきます、と言う蒼志は大物に見える。

「んー！　美味デース！」
「後で器返さないと」

　独特な2人は蕎麦を食しながら寝子高の門をくぐる。
　似たようにダッシュする生徒達が入り終わるのを見計らったようにチャイムが鳴る。
　ダイナミックな一日の始まりであった。

●●●ダイナミック・ザ・ビボー●●●
　昔、誰かがこう言った。
　美しい事は罪である、と。
　それは美しくない者が揶揄して言ったのか、美しい者が自らの美徳を語ったのか。
　今となってはただの言葉遊びに過ぎないとされているのだろう。

「この顔、絶対に誰にも見せるわけにはいきません…美しすぎますから」

　しかし、仲秋薫は美しすぎる顔を持った人間だ。
　休み時間に開けられた窓から入ってきた風が薫の髪を乱していった。
　手入れをする際にトイレの個室に入り、自分の顔に見とれている。

（うん、完璧。顔はもちろんのこと、髪は流れる夜の川のよう…私って美しいですわね）

　一頻り自分の顔を堪能した薫は眼鏡とマスクで顔全体を隠す。
　そのまま授業に戻るが、秋の陽気に照らされ、居眠りをしてしまう。
　誰かが居眠りを注意されて、目を覚ます薫。

（ああ、私としたことが。居眠りなんて美しくないです。…けれど、これは一体？）

　そう、目に入ってきたのは教師がチョークを投げた所。
　別のクラスどころか、学年も違うはずの御剣刀が1本目をすんでの所で掴む。
　刀はチョークを折るが、二の矢…二のチョークが来ていたことに反応が遅れた。

「って吹っ飛ぶのかよ！？」

　刀はチョークによってとばされながらもつっこみを入れる余裕がある。
　後ろの黒板に背が当たるが、足らぬとばかりにチョークが迫る。
　回避できずに全チョークの攻撃が当たり、丁度人一人分ぐらいのチョークの粉が舞う。

　刀がせき込みながら粉から脱出すると、待っていたのは笑いであった。
　全身真っ白になっているのを面白がる者も居れば、またやったな、と言うように笑う者も居る。
　そこに違和感を覚える刀と薫は目が合った。

「もしかして…」

　刀が何かを言いかけたとき、チャイムがお昼休みを告げる。
　先ほどまでの笑う雰囲気はなく、男女問わず、戦闘態勢になった。
　意味が分からず居た薫は怒濤の如く横切る生徒たちを避けるために体を動かしていたら回ってしまった。
　その拍子に眼鏡とマスクがはずれてしまう。

「大丈夫か？　仲秋」

　大げさに倒れ、顔を見られまいと必死に下を向き続ける薫。
　急ぎ遅れた真っ白な刀は薫の様子をうかがうために薫の顔を見る。

「うわっ！？」

　しかし、薫の顔はダイナミックな美貌により光輝いていた。
　刀はそれを見て、小さな悲鳴を上げながら尻餅をついてしまう。
　至ってフツウの反応と言えよう。

「…見ましたね！？」

　叫ぶ薫は素早く眼鏡とマスクを装着し、刀の肩を掴む。
　その勢いをそのままに降りかぶった拳を刀の頭へと無遠慮にめり込ませた。
　打ち付けられた刀の頭を中心に床にひびを入れた。

「忘れなさい！　今のを！　あなた、全く何も見てませんよねそうでしょう！？」

　薫のろっこん【あなたは何も見ていない】が発動しているはずである。
　素顔を見られてから10秒以内に相手の頭を殴る事で1分間の記憶を失わせる。
　ダイナミックなお昼は始まったばかりであった。

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