もれいびになれたなら｜リアクション

もれいびになれたなら

●ボク、オレ、私が考えたろっこん

「魔法みたいなものなんだな、ろっこんってやつは。オレだったらこういうのにするぜ！」
　龍樹が思いついたのは空を飛ぶこと。
「これもいいけど、巨大化して怪獣と戦うのもすてがたいなー」
　頭の中で思い描くのは、遠い宇宙からやって来た巨大怪獣が寝子島を襲撃し、怪獣と同じくらいの大きさになった自分自身。
　カッコイイぜ！　と興奮したが、これだと某巨大変身ヒーローと同じで３分しか使えないんじゃ……と思うと使うことを躊躇。
（制限あったら面白くねえな）
　使えると思ったのに、とがっかりしたが、別のろっこんを考える。
「女の子にモテモテになるろっこんもいいな！　でも、それだったら大人になるろっこんでいいかー。オレが大人になったらモテモテ間違いなしだもんな！」
　女の子好みのイケメンになった自分を想像し、エヘヘ……と照れ笑い。
「龍樹君……顔、赤いよ。おねつあるの？」
　咲耶にそう言われハッとなった龍樹は、自分の想像がモロバレしたか！？　と焦る。
「だ、大丈夫だぜ！　ところで……宿題やらなくていいろっこんってないかな？」
「……それは、ないと思う。宿題は自分でやらなくちゃ」

　外で遊んでいる子も、室内で遊んでいる子も咲耶と龍樹のようにろっこんの話を。
「オレが使ってみたいろっこんはこんなもんだな！　咲耶は？」
「………高校生のおねえちゃんから聞いたんだけど、男の子がお便所に行くことを『あさがおのお花にお水をあげに行く』って言うみたい」
「それ本当か？」
「……わかんない。そうだったら本当にあさがおのお花を呼び出して、周りを蔓と葉っぱの壁で囲んじゃったらどこでもスッキリ出来るんじゃないかなって思ったの……ボク、すぐにお便所に行きたくなるから『召喚型のお便所』のろっこんっていいなって、ママ……なぎさせんせいに言ってみたの」
　そうしたら、渚は皆が使えるろっこんがいいね、って微笑んで答えた。
「壁だけだったらお着替えも出来るし、ひまわりのお花でシャワーも出来るでしょ。女の子がお便所に使うなら、座れるチューリップじゃないとだめだよねって、教えてくれたの」
　ひまわりのシャワーにチューリップのトイレは、女の子の想像力を膨らませたようだ。
「お花のおトイレ、可愛くていいね。そのろっこん、名前を付けるとしたらどんなの？」
「ボクのろっこんのおなまえは『ひみつのはなぞの』っていうんだ。もういちど、ママ……なぎさせんせいと、かんがえようかな」

　子供達が遊んでいる様子を見ながらおしゃべりを聞いていた渚の心の中に、あるものが浮かんだ。
（何これ……）
　浮かんだのは「ねこにゃんるーむ」内をフワフワと漂う音符。
　保育園の園児や学童の小学生がそれに触れると、渚の明るい歌声が室内に広がった。
（私の歌声が聞こえる……楽しそうでいいわ）
　渚は心の中で歌いながら、そっと空中に音符を書く。すると、歌の旋律が音符になって空中に現れた。
（レベルアップすれば、輪唱だってできるようになるはずね……多分）
　浮かんだろっこんのことを、渚は咲耶に「こんなのどう？」と聞いてみた。
「私のろっこんの名前は『ふわふわのおんぷ』。歌を歌った時に出てくる音符に触るとね、私の歌声が聞こえるという感じなの。どうかな？　さっきゅん」
「い……いいんじゃないかな……？」
　子供以上に楽しそうな母に問われ、苦笑いしてそう答える咲耶。
「渚せんせーらしいろっこんだな」
「うん、先生らしい」
　渚が思いついたろっこんは、子供達に好評だった。

　ろっこんの話で盛り上がっていたが、咲耶と話していた女の子の兄がお迎えに来た。
「私、帰るね。咲耶くん、また明日ね。バイバイ」