もれいびになれたなら｜リアクション

もれいびになれたなら

●理想と現実の間で悩むカレーな兄

「ボクらっかみっていう神様に嫌われているのかな？　だから、もれいびになれないのかな？」
　そう思うと悲しくなり、萌は泣きそうに。
「神様、らっかみ様……ボク、良い子になりますから、どうかもれいびにしてください。お願いします」
　跪き、寝子島のお空にいる（と思っている）神様にお祈りを。
　お祈りを済まると気持ちを切り替え、別のろっこんのことを考える。
「もし、ボクがもれいびになれたら……このドアを開けたら行きたい所に行ける。そんな力が欲しいな」
　それって青タヌキっぽい某ロボットの道具みたいだけど、と苦笑し、自室のドアを開ける。
「この部屋のドアを開けると、彼が目の前に……」
　なーんてね☆　とドアを開けるが、ドアの向こう側に思いを寄せる彼は……いない。
「……いるワケないよね。ボク、ろっこん使えないから……」
　気になるあの人に会いたい。その思いが募り、萌は泣いてしまった。

「ど、どうしたんじゃ萌！？　何かあったんか？　兄ちゃんに話してみぃ！」
　学校から帰って来た巌が心配し、萌に駆け寄ってきた。
「ボク、らっかみっていう神様に嫌われているのかな？だから、ろっこんが使えないのかな？」
「ろっこん？　学校とかで噂話になっとるアレのことか？」
　コクンと頷く萌。
「お兄ちゃんだって……もれいになってろっこんが使えたら、究極のカレーが作れるようになるんだよ？」
「う、うむぅ……」
　ろっこんが使えたら、自分が追い求める究極のカレーが作れる。
　その一言に巌の心は揺れ動いたが、ろっこんで作ったものは自分で作ったものとは言えないと振り払う。
「ええか、萌。もし、わいがもれいびっちゅうもんになってろっこんが使えても、そんなもんで究極のカレーを作るのはズルじゃけん。自力で作ってこそ、わいが作り上げた究極のカレーじゃ！」
　漢（おとこ）ならば、己の身ひとつで戦うべき！　
　そういった信念の持ち主たる巌は、喧嘩や授業にろっこんを使うのは卑怯であり、ズルだ。
　もれいびがひとに対してろっこんを発動するのは、喧嘩が強い奴が己の力を過信し、抵抗できない弱いものをいじめている。
　そんなことは反則じゃ！　と憤る巌だったが、ちょっといいかも……と想像してみる。
（ろっこんか。そんなもんがありゃあ、いつでも簡単に、好きなだけカレーライスが食えるけぇ……）
　自力で作ってこその美味いカレーという信念は捨てきれないが、好きなだけカレーが食えるのは魅力的だ。
　どうすべきか悩んでいる硬派な兄に対し、妹は『ひと』のままでいることに不安を感じている。

「お兄ちゃん、今、カレーが作れるろっこん使えたら、って考えてたでしょ」
　萌にそう言われギクッ！　となった巌だったが、番長な顔を崩さず「そ、そんなことないわい！」と即答。
（図星だね……）
　兄のことを良く知っている妹には、巌の考えがわかる。
（寝子島だけでなく、全世界の人類が皆もれいびだったら、わいが人類最後の『ひと』になるのも格好ええかもしれんのぉ……）
　もしわいら兄妹だけがひとだったら、人類最強の鬼河内兄妹じゃのぅというのを巌は想像してみた。

「……何で急に昨日のこと思い出したんじゃ？」
　買い出しに行った時、夕飯の買い物をしていた主婦達の話を聞いたからじゃろと思い、再びカレー作りに専念。
「お兄ちゃん、カレーできた？」
「萌か。あともう少しで完成じゃ。できたら味見してくれんかのぅ」
「いいよ」
　
　究極のカレーは自力で作ってみせるわい！　と意気込む巌だった。
　萌は、またいつか魔法少女になれるといいな、とカレー作りに集中している兄を見ていた。