もれいびになれたなら｜リアクション

もれいびになれたなら

●可愛い妹の願い

　放課後。
　鬼河内巌は、寝子高北校舎２階の家庭科室で『究極のカレーを作る！　そして喰う！』が目的とした『究極のカレーを求める会』の活動に使う食材の買い出しから戻ってきた。
　料理に目覚めた女子生徒が結成した会なのだが、今は彼ひとりでカレーを作っている。
　学校が終わるまでに仕上がりそうもないので、前日のうちに独自に調合したカレールー、じっくり炒めた飴色のタマネギを用意。
　それらにニンジン、ジャガイモ等の野菜と肉を家庭科室でじっくり炒め、寸胴鍋でじっくり煮込むこと２時間。
　巌の鼻孔をくすぐるカレーの匂いが、家庭科室いっぱいに漂う。
「美味くできたかのぉ」
　小皿にカレーを入れ、一口お味見。
「美味くできとるが、究極には程遠いのぉ」
　これはこれでいけるんじゃが、と納得いかない巌は、少し工夫してみるかとスパイスを加えようとした時に昨日の出来事を思い出した。
　寝子島で生活していて思ったことは、変な技を使う人がいるということ。
「変な技を使う奴がいるのぅ。ひょっとしてアレが、噂に聞いたろっこんとか言うヤツかのぅ……？」
　ろっこんの噂は学校で聞いたり、妹の鬼河内萌が使えるようになりたいと言っていた。
（そういやぁ、昨日、萌が妙なことしとったのぉ。あれもろっこんの影響なのかのぅ？）

　昨日の夜、鬼河内家でのこと。
　自分の部屋にいた萌は竹刀を高く掲げ、軽快なステップでダンスしながら呪文を唱える。
「あの時みたいに、灰色猫型魔導騎士ロボを呼び出してみようっと」
　すると、竹刀をステッキのように振り回すと全身に星を纏い、女の子向けアニメの変身シーンにある光で誤魔化した全裸なシーンに。
　魔法少女変身シーン大好きな男の子ヒャッホウ！　な展開はお約束。
　セクシー系美女に弱い兄が見たら、鼻血が出ること間違いなしな場面だ。
　全身を包み込む星の煌めきが消えると、萌はピンクの猫耳フリルミニスカ姿の魔法少女、ピンキーモエに華麗に変身！
「魔法少女ピンキーモエ、ただいま参上！　悪い子はおしおきだよ！　ちょめ☆」
　アイドルスマイル、アイドルポーズをビシッと決めるが、衣装は何の変化も無し。竹刀も普通のものだ。
「何で？　何で魔法が使えないの？　あの時はたしかに使えたのに……」
　喋る灰色と白の猫に導かれるように行った魔法少女の世界で、萌は魔法少女になって巨大半猫騎士型ロボを召喚したり、必殺魔法を発動させカレーで悪い敵を沈めたことがあった。
「ネコミケの時も、ボクは魔法少女になれたのに……」
　その時はネコミケ公式キャラの猫耳魔法少女になれたので「あの時の出来事は本当だったんだ！」と大喜び。
　でも今は……魔法が使えない。
（もれいびになれば、あの時と同じ魔法を使うことが出来るのかな？）
　クラスの子の何人か、集まって「ろっこんって魔法みたいなものなんだって」という噂を話をしていたのを聞いたことが。
　萌自身は気付いていないが、彼女の友人にはもれいびが多い。
（ひょっとしたら、寝子島の住民はボク以外もれいびなのかも。世界中の人間は皆もれいびで、ボクとお兄ちゃんだけがひとのままなのかな？）
　このままだと、自分だけ完全に取り残されてしまう。そういった恐怖心が彼女を襲う。