もれいびになれたなら｜リアクション

もれいびになれたなら

●夢見る少女のろっこん（予告風）

　シーサイドタウンの自宅で、ぬいぐるみのフェンリルを抱きしめながら加藤神々ノ黄昏はテレビアニメを見ていた。
　じーっと見ているのは、人気がある魔法少女が主人公のアニメだ。
（私も使ってみたいですっ）
　そう思った時、小学校の生徒達が話していたろっこんの噂話を思い出した。
（ろっこんは、どのようなものでございましょう？　このアニメみたいなものなのでございましょうか？）
　生徒達の話だと、超能力、魔法といった類のもの……らしい。
「私が『もれいび』いうものになったとしたら、どのようなろっこんを使えるのでございましょう？」
　考えているうちに妄想が捗った神々ノ黄昏は、アニメを見ながら自分が主人公になった気分で考えてみた。

　私の名前は加藤神々ノ黄昏っ、小学４年生でございますっ！
　普通の小学生だった私ですが、突然『ろっこん』という不思議な力に目覚めてしまったのでございますっ！
　一瞬で、服がいろいろなものに着替えることができたり。
　空を飛んだり、怪光線を放ったり、むやみに徒手格闘が強くなったりっ！
　それはもう、大変なことになってしまいましたでございますっ！
　私は、地球の運命を背負わされたりするのでございましょうか……。不安でございます……。
　でも、私は負けませんっ！　ろっこんを使いこなしてみせますっ！

『黄昏少女ラグナロク』第１３話
「ヒトなんて小学生までよね！　まだもれいびじゃないなんてダッサーい！」
　お楽しみに！

　アニメの次回予告風に想像をしてみたが、これでは二番煎じ！　と即、却下。
「独創性に欠けます、このようなもの却下ですっ！　私だけの、いえ、私だからこそ使える！　的なものがカッコイイのでございますっ！」
　自分だからこそ、自分を象徴するようなろっこんは……。
　いろいろ考えた末、思いついたのは自分の名前だった。
「……ハッ！　そ、それは……！　いけませんでございます！　それだけは許されざる禁断の領域っ！！」
　加藤家兄妹はＤＱＮネームを連ねているが、その中でも神々ノ黄昏はインパクトが強い。
　自分の中で一番恥ずかしい部分である名前に辿り着いて愕然。更に、他に思い当たるものがないので、激しい自己嫌悪に陥る。
（な、何故このようなことで落ち込まないといけないのですか……！）
　しばらくフェンリルちゃんを抱えてジタバタしていたが、突然、あることが閃いた。
「……！　ありましたっ！　私にはフェンリルちゃんという唯一無二の相棒がっ！」
　人生の半分を共に過ごしてきた『強敵』と書いて『とも』と読む愛用のぬいぐるみだが、戦った事実は無い。
「……お前、喋ったり動いたり出来るようにならないでございましょうか？」
　フェンリルに話しかけるが、反応はない。
「当たり前ですね」
　そう言った後、神々ノ黄昏は何かの声を聞いた気がした。

オマエ　オレト契約シテ　ロッコン少女ニナレ
「……？」
　無反応かとガッカリした時、フェンリルがそう言ったような気がした。命令口調なのがちょっと気に障るが。
「気のせい、ですね。フェンリルちゃん、お前は私がもれいびになっても大切な相棒でございますっ！」
　神々ノ黄昏はぎゅーっとフェンリルを抱きしめる。
　その時、フェンリルの目が赤く光ったような……気がしたが、気のせいだろう、多分。