もれいびになれたなら｜リアクション

もれいびになれたなら

●大切なお友達と心を通わせたい

　御鏡聖は寝子高から帰った後、自室で巫女服に着替えてから修行の一環である寝子島神社境内の掃除を。
「今日もいいお天気ですね、しろ」
　境内のベンチに座らせた銀狐のぬいぐるみ「しろ」に、微笑んで声をかける。
　天気のいい日に、しろを部屋に置いておくのはもったいないと、掃除が終わるまでベンチに座らせている。
（私の身勝手で別れてしまいましたが、帰ってきてくれて、こうして一緒にいられることは嬉しいです）
　しろが戻ってきてくれたことは、とても嬉しかった。
　その時、大切なお友達をもう離したりしないと誓った聖だった。

　境内の掃除が一段落したので、ベンチに腰掛け、しろを膝に乗せおやつの饅頭を食べながら休憩。
「しろ、今日、学校でこんなことがあったんですよ」
　饅頭を半分ほど食べた後、緑茶を一口飲んでから話しかける。
　返事はないが、しろにも心があり、ちゃんと自分の話に耳を傾けていることが聖はわかっている。
（返事がないのはわかっていますが、それでも、しろの言いたいことも聞いてみたいです）
　緑茶を飲み終えた時、クラスの女の子達がろっこんが使えたら、という話をしていたのを思い出した。
「ろっこんが使えたら、私は、しろとお話をしたいですね」
　こっくりさんの噂を聞いた時、しろと話ができないかと思いやってみたことがある。
　その時は、しろの影と聖の指が重なった状態で会話ができた。
　会話ができ、しろの気持ちを知ることができたのは嬉しかったが、文字でのやりとりだったので今思うと少し虚しい気持ちに。
　実際にお話ができたら。何度、こう思ったことだろう。
（その後からですね。しろとこうして空を見るようになったのは）
　膝にのせたしろを撫で、いつかは、しろと直接いろいろなことをお話したいですね、と思う聖。

　ベンチでしろとお話をしていたら、花盗人の一件で初めて会ってから時々遊びに来てくれる狐が。
　この狐も、聖の大切なお友達だ。
「こんにちは、狐さん。狐さんも一緒にお饅頭食べますか？」
　饅頭を食べやすい大きさにちぎり、包み紙にのせベンチに置く。狐はベンチに飛び乗ると、饅頭を一口。
　美味しい、と言っているかのようにコンと鳴く。
「喜んでもらえて嬉しいです。狐さんとも、お話しをしてみたいですね。私が狐さんの耳とか持っていたら、狐さん達の声が聞こえるんでしょうか？」
　狐の声が聞こえるのなら、自分が狐に変身できたら楽しそう。
「狐さんに変身し、狐火を扱えたりしたら、森の中で周りが暗くても困りませんね。しろと狐さんは、私がそういう風になったらどうですか？」
　しろと狐に問うが、返事はない。
　饅頭を食べ終えた狐は、ベンチから降りると聖の足に甘えるように擦り寄ってきた。
「そうなったら嬉しい、とお返事してくれたんですね。ありがとうございます、狐さん」
　何も言わないが、聖の膝にのっているしろも同じ返事をしているだろう。
　饅頭を食べ終えた狐は、聖にペコリと頭を下げてから境内を去って行った。

　ろっこんが使えるようになったら、しろと狐達と今日みたいにおやつを食べたい。
　時間が過ぎ去るのを忘れ、ゆっくりと、いろいろなお話をしてみたい。
　おやつの後片付けをしながら、そう考える聖だった。

　その日の夜、聖は狐に変身し、しろと狐達と遊んだり、楽しくおしゃべりしたりという夢を見た。
「しろ……楽しいですね……」
　寝言を言いながら、銀狐のぬいぐるみを抱きしめる聖の表情は幸せそうだった。