自分が自分でいられる場所で｜リアクション

自分が自分でいられる場所で

　●　薔薇薫る秘密基地　●　

　維都月茉菜の秘密基地、といえば『だんぼーるはうす』以外考えられない。

　寝子高に入学した当初、茉菜は家族不和のある家に居たくない一心で、シーサイドタウンに自分だけのお城を造った。それが『だんぼーるはうす』だ。
　ダンボールで作られた空間は、夏は涼しく冬は暖か。
　そんなだんぼーるはうすに使っているのは、防水ダンボール。
　水に浸しても大丈夫というふれこみのこのダンボールは、人類最大の発明ではないかと茉菜は思っている。

　これに勝るものはないのだけれど……何といっても素材は紙。

「ああ、やっぱり傷んでるっ」
　継ぎ目を確認して、茉菜は呟いた。
「最近総改築してなかったから仕方ないんだけどね～」

　屋外という環境下では、たとえ防水性のあるダンボールといえども劣化から逃れることは出来ない。
　常にあちこち点検して維持管理しないと、いつどこが壊れるやら分からない。
　特に、これからの季節はどんどん寒くなる一方だから、そうなる前にしっかり直しておかないと。

　傷みやすいのは継ぎ目や接地面。
　しょっちゅうチェックしているから、どのあたりが劣化しやすいのかも頭に入っているし、補修に使うものもちゃんと常備してある。
　補強テープを貼り、ひどく傷んでいる箇所はダンボールごと取り替えて。
　手慣れた作業を終えると、茉菜はこれでよし、と『だんぼーるはうす』に入っていった。

　今日はちょっと荷物が多い。
　それも華やかな荷物――友達からもらった薔薇と、家からくすねてきた花瓶だ。
　あまりに綺麗な薔薇だから、環境が整った自宅に持ち込むべきかと悩んだけれど、やっぱりだんぼーるはうすに飾ることにした。
　家よりも、だんぼーるはうすにいる時間が長いのだから、やっぱりこちらに飾って存分に眺めたい。

「うーん、いい匂い～」
　甘いけれど甘いだけではない薔薇の香り。
　ローズオイル系の香りはいろいろあるけれど、薔薇の生花の香りに勝るものはない。
　しばらくはこのだんぼーるはうすの中を、香りと華やかさで彩ってくれることだろう。

「この場所に似合うかどうかは別として、やっぱりお花があるのはいいよねっ」
　ゆっくりと薔薇を眺めた後、茉菜はテーブルの上にタロットカードを広げた。

　茉菜が占いを始めたきっかけは、寝子島のシマリス書店で手に入れたタロットカード。
　最初は綺麗な絵柄に惹かれて、試しにカードに触ってみて。
　そしたらずごく面白そうだったから、解説本も何冊か買ってみた。
　解説本のおまけについていた、ちょっとヘンな絵柄のカードが増えたりもして。

　タロットカードは読み解き方によって結果が変わってしまうから、当たる、と茉菜には言い切れないのだけれど、そんな時には。
　辻占いのおじいさんが教えてくれた、魔法の呪文を叫べば大丈夫。

「当たるも八卦！　当たらぬも八卦！」

　だんぼーるはうすの中、端っこに薔薇の生けられた花瓶を置いたテーブルで、茉菜はタロットカードをくるくると混ぜるのだった。

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