エイプリル・ウール｜リアクション

エイプリル・ウール

●悪の種と白いあれ

　――寝子島高校、校門。
　草薙は屋敷野と分かれた後、真っ直ぐに寝子島高校へと向かっていた。
（羊の脱走……まぁ、これは偶然といってもいいだろう。しかし隕石となると……少し妙だな）
　校門の壁に背中を預けながら、携帯を操作して情報を集める。
　羊については、エノコロ岬、砂掛谷、どちらも確かに情報が少なからずあったが、調べるほどその濃度は薄くなっていった。よって、今はその可能性を切り捨てている。
（そもそも何故、あの女は、そんなデマを伝えようとしたのだろうか）
　多角的に思考を飛ばして、問題点を洗い出し、全てに対処方法を考えた。
「……ふん」
　多少、不鮮明な要因はあったが、今回の目的には問題がないと結論を出した。
　それよりも、隕石についてだ。相変わらず詳細は不明だったが、しかし、早々に組まれた特集で専門家が「本来落ちるようなものではない、原因を調査中」と発言していた。そして、草薙にとっては凡そ、それだけで情報としては充分だった。
（羊との関連性はまだわからないが、ろっこんが絡んでいるのは間違いない……）
　再び携帯を操作する。
「寝子島高校の生徒が一、二、三、四……五。五人か」
　携帯で表示していたのは、『ねこったー』に投稿された情報を纏めるサービスの一つ『よせねこったー』だった。微妙にセンスがない名前だが、実用性はある。
　そして、その『よせねこったー』によれば、動物園から逃げ出した羊は、偶然にも全て寝子島高校の生徒と一緒にいるらしい。
　さらには、そのうちの一人は、動物園へと向かうこともなく真っ直ぐに、この寝子島高校へと向かっている、という情報さえあった。
　幾つか同じような情報が投稿され、すぐに消えていったが、総合的に判断して、情報操作をしている者がいるのだろう。と考えた。相手については、今は考えないことにする。
　すると、携帯を操作していた草薙の耳に、自転車のペダルを漕ぐ音が聞こえた。それと、耳慣れない動物の鳴き声。
　壁から背中を離し、走る自転車の前に身体を出した。
「わわ……危ないな。轢かれちゃうよ！」
　急ブレーキをかけながら、自転車に乗った七海が叫ぶ。それなりに距離が開いていたことも幸いして、接触はしなかった。
「…………何だ、それは」
　草薙が自転車のカゴに収まっている丸い物体を指差して、問う。
「ひつじ。街道の中央分離帯にいて、危なかったから保護してきたの。さっきここに来る最中に動物園に連絡したから、そのうち迎えに来るんじゃないかな」
「ンベェ～ムィ」
　草薙のイメージしていた羊とはやや違ったが、羊であることには変わりない。
　自転車に近寄って、首元を掴んで持ち上げると、羊は手足をパタパタと動かしながらもがいた。
「ちょっと、酷いことしないでよ！　まだその子、子供なんだから」
「借りるだけだ、用が済めば返す」
　眉根を寄せながら近づいてくる七海を見て、草薙は腰を落とした。
　邪魔するのなら、容赦はしない。相手が誰であろうとも。
　手首を返して、掌打を叩き込むイメージを脳内に浮かべる。
　しかし、その時。
　唐突に背後から叫び声が上がった。