エイプリル・ウール｜リアクション

エイプリル・ウール

●らっせき！

「滝野！」
　振り向くと、寝子島高校の制服に身を包んだ男が、もう一人の生徒の顔を手で覆っていた。
「……あれ、八神くん……と、誰？」
　七海が目を隠している生徒を見て、声を上げる。
　顔を覆われた生徒は、慌てふためいて、そそくさと八神の後ろに回りこむ。
　その光景を見て、草薙は思わず、口の端を僅かに持ち上げて微笑んだ。瞬間的に予測を補完していく。
「お前が……そのもれいびか」
　子羊を小脇に抱えながら、草薙が走った。突然接近された八神は現状を把握するために、一瞬反応が遅れた。その隙を突いて、草薙が壁面を蹴って、跳ぶ。
　空中で、着地する前に、八神の背後に付いていた滝野と目が合った。
　視界を切るように、脇に抱えた羊を滝野に向かって投げる。
　突然飛来したそれが何なのか理解できなかった滝野は、飛んできたものが子羊だとわかると強く目を閉じた。
　僅かに遅れて振り返った八神が、子羊をキャッチする。
「ンベェ～ムェ～ィ」
　状況が飲み込めていない子羊が、小さく鳴く。
　――小さな耳鳴りのような音が、辺りに広がり、そして消えた。
　そして、空が瞬く。
　明るい青空に、無数の、数え切れないほどの流れ星が流れる。
「……滝野？」
　八神が、地面に座り込んだ滝野の肩に手を置きながら、口を開く。
「…………うん、一つだけ、じゃないときも、あるんだ」
　空を見上げながら、滝野はとても悲しそうな表情を浮かべた。
「うわー……凄い、なにこれ。綺麗……！」
　『らっかみ』や『もれいび』など、伝説だ。と思っている七海は、太陽の光を手で遮りながら、空を見て声を上げる。
　そんな声を聞いてか聞かずか、草薙はその場を離れた。「……『フツウ』なんて、壊れればいい」そう言い残して。
　ひときわ大きな光が空に走ると、槍のようなものが、空から落ちてきた。大きさはとてつもないが、速度はとてもゆっくりに見える。
　ズンッ、と地面が僅かに揺れた。
　やがて、遅れて強風が砂埃を運んでくる。
　桜栄邸の方に何かが刺さっているように見えるが、それが何なのかはわからない。
　「隕石か」と問われれば「違うような気がする」としか、言えない物体だった。

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