【演目その１８　『ああ、素晴らしき財前華蓮』】

「いくつもの名演を生み出してきたマタタビック演劇フェスティバルも、そろそろ終幕の時を迎えようとしております……というわけで、次なる演目が最後！　本日の大トリ！」
　何を思ったのか、意味をトリ違えてしまったのでしょうか、最後の演目紹介に登場したハルさんの格好は、ニワトリの着ぐるみでした。コケコッコー。
「ラストを飾るのは、なんと総勢５１名による、本日最大規模の大舞台！　壮大なスケールでお送りする、とある女神の誕生秘話！　いいえこれはもはや、神話！　GoddessでDivaなあの方が今、このスターヒル・シアターへとご降臨召されるのです！　ちなみに今、お姉さんはガッツリとカンペを読んでおります！」
　ぶっちゃけました。
　まぁともかく↑の見出しをご覧になれば一目瞭然ながら、ご降臨してくださるのはあの方でして、そんなわけでして、最後の演目が幕を開けてしまうわけなのであります。
「あらかじめお姉さんがあくまで善意で言っておくと、シンコーシューキョーとかじゃないから安心してね、それでは締めの演目！　よろしくお願いしまーす！」



「『財前華蓮教団』で、『ああ、素晴らしき財前華蓮』！！」


「……シラフで読まされるの、けっこーキツイわこれ……」
　といった司会者さんのぼやきも、彼女にはもちろん聞こえておりませんでした。
「去年は何の間違いか、平凡な結果に甘んじてしまいましたけれど、今年こそは！　いただきますわよ、最優秀賞ッ！」
　そう、財前 華蓮！　何だか去年も出場してたらしくて、その時の結果にはイマイチ納得がいってないそうですけれど、ともかく今年もこうして出番を迎え、彼女、燃えております。
　燃え上がるあまり、教団員という名の共演者さんを、マジに５０名も集めてしまったほどです。
「この私自身の華麗なる生涯を、全て私の監督、脚本、演出によって舞台化したのです、これはもう号泣間違いナシでしてよォーッホッホッホ！　さあ皆さん、行きますわよッ！」
　最高の美が、今舞台を席巻する……かも知れない！
　あっ、今回はカレーネタは無いそうです。いちおうあしからず。

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　あたりは、先も見えない暗黒に包まれています……今はまだ。ただ、歌が聞こえてきます。清廉かつ荘厳な響きの、賛美歌が。
　ぽつり、ぽつりとやがて、明かりが灯り始めます。揺らめくキャンドルの炎に照らし出される、絢爛にして壮麗なその空間はまるで聖堂のようで、繊細で優美なパイプオルガンの音色、両手を組み一心に歌を捧げる人々の姿は、見る者に教会で行われるミサを思わせました。
　上方から差し込み始めた光を、人々は見上げます。求めるように。縋るように。
　そして光が強く、明るくなっていくにつれ、賛美歌の響きは大きく、力強くなって行きます。
　そう……あなたにももう、聞こえるはず。

La.La.La....
　女神を称え、その降臨を渇望する、聖なる言葉が！

……La.La.……前 華蓮は……

La.La.La.……美……賢……

＼ラララ～、財前 華蓮は素晴らしい～！／

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　観客席は概ねポッカーンとしておりましたけれど、まぁ、ええ、ともかく見てあげてください。
　特にほら、舞台の上の彼らを。羽織ったローブから覗く顔、死んだような目をしている彼らの、必死に演じる様を！
　だって彼らは、俳優でもなんでもないんです。サンマさんに即興劇へ指名された人々のように、仕方ないなぁちょっと頑張ってやろうか、なんて前向きになれそうな要素だって、ビタイチありゃしないのです。
　恥辱にじんわり涙目だったり、諦観の極みに瞳から光を失っていたり、真っ青で吐きそうになってたり……彼らの顔を見れば分かるはず、ああ、無理やり連れてこられたんだなって。分かっていただけるかと思うんです。
　見れば揃いも揃って控えめそーな、押しの弱そーな、例えるなら新聞購読の押しかけ勧誘とか断り切れなさそーな、道端でしょうもない絵画とか売りつけられてしまいそーなそんな面々を、もう集めに集めまして。
　その数、５０名！
　舞台上にそれだけの人々がずらずらと並び、様々な情念の篭もった歌をどろどろと歌い上げている光景は、あるイミすごく圧巻ではありました。マジで。

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　時は、XXXX年の12月12日。そう、この日は雪が降っていました。
　集う人々はいずれも、財前教団の敬虔なる信徒たち。

＼ラララ～、財前 華蓮は美しくて賢い～！／

＼ラララ～、財前 華蓮は完璧～！／

＼ラララ～、つまり財前 華蓮は～、最～強～！／

＼ラララ～我らが女神様～、財前 華蓮～ラララ～！／
　ああ、女神降臨の儀を執り行う人々の、何という熱き想い。この胸に迫る言葉、願いでしょう！
　もちろん、女神は彼らをいつも見ているのです。慈しんでいるのです。
　そしてこの時、女神は彼らの求めに応えたのです。
　あまりの神々しさに彼らは一瞬息を呑み、歌を忘れ、まばゆい光条が天より降り注ぐ中へと、降臨したのです……女神が。
　この時初めて財前 華蓮は、そう私は、現世へと舞い降りたのです！
　そして敬虔なる信徒たちへと、私は、第一のお告げを授けたのです。
「財前華蓮ファンクラブ、今なら年会費5000円」
　とね！

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　女神様、さっきミサとか仰ってましたけれど、あれ間違いです。
　黒ミサです。サバトです！　うおおおン、なんてむせび泣く人々の追い詰まった顔を見たら、悪魔降臨の儀式か何かとしか思えません！

＼ラララ～、素晴らしい財前 華蓮ファンクラブ～！／

＼ラララ財前 華蓮ファンクラブ、今なら年会費5000円～！／

＼ラララ安いし～美しいし～もう何なの～！／
　何なのって、こっちが聞きたいよ！
　といったツッコミもよそに、女神華蓮様、なんとふわりと宙へと浮かび上がります。ワイヤーに吊られて、背にはためく翼を一打ちし、ふわり、ゆらゆら。ばびゅーん！
　観客席の上を自在に、優雅に華麗に飛翔しながら、女神様は何かをお配りあそばし始めました。なんともありがたいことに、ひとりひとりに手渡しです。

＼ラララ～財前 華蓮ファンクラブ会員証～！／

＼ラララ～黄金に輝くスーパープラチナ超レアアイテム～！／

＼ラララ幸運を呼ぶ会員証～捨ててもちゃんと戻ってくる～！！／

＼ラララ～、ラララ～！　素晴らしい我らの女神様～、財前 華蓮～！／
　……ええ、まぁ。控えめに見ましても、彼女、美人さんなのは確かです。配っているのが例えば綺麗なお花か何かだったなら、あるいはモノホンの女神様にも見えたかもしれません。
　でも、会員証……。
　観客席の困惑の極みにも、女神様は神々しく、満足げな微笑みを浮かべるばかりでありました。
「ふっ。皆さん感激のあまり、喜びの声も出ないようですわね……！　演劇と勧誘を組み合わせた、この斬新な舞台！　これで最優秀賞は頂きですわ、オーッホッホッホッホッホッホッ！！」



　ところ変わって物販スペースにて、女神様こと財前先輩を、熱の篭もった視線で見つめる信徒がひとり。畑中 華菜子です。
　演目の様子を映し出す大型モニターの中では、
「ちょっ！？　ちょっと富士山先生、まだ劇の最中ですわよ！　何をなさるんですのーっ！？」
「ええいうるさいわね、去年といい今年といい、あなたは全く……！　さっさと降りなさいっ！」
「お、横暴ですわ、表現の自由の侵害ですわ！　ちょ、やめ、引っ張らないで……ほらあなたたち、会員証差し上げたでしょう！？　財前華蓮親衛隊の一員になったのだから助けなさい……何ですのその死んだような目は！？　いいから早く、ちょっと、いや、お待ちになって……いーやーーーっ！？」
　といった感じで、フジコ先生にガッチリと組み付かれた財前先輩が、ずるずるずるりと地上へ引き降ろされているところでしたけれど。
　華菜子ちゃんはと言いますと、
「……やっぱり先輩はすごいなぁ、輝いてるアル！　本物の女神様みたいアル！」
　ああ、素晴らしき財前 華蓮。少なくともひとりにとっては、彼女はまごう事なき女神であったということです。

＜『ああ、素晴らしき財前華蓮』　でも打ち切りＥＮＤ＞

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「……がんばれ！」



「はいっ、サンマさんのありがたーいお言葉を持ちまして、以上で全ての演目が、ラララ～終～了～いたしました～！　出演者の皆さま裏方スタッフさんの皆さま、ここまでお付き合いいただいた観客席の皆さまも、ひとまずお疲れさま！　この後は、しばしの休憩時間を挟みまして、いよいよー！　いよいよ各賞の、受賞者発表タァーイムッとなりまーすっ！　見逃しちゃあダメダメよん、check it out！」