雨上がりの屋上｜リアクション

雨上がりの屋上

　さて、雨がやんだとなれば、教室で授業を受けている岡野丸美はうずうずうず。
　３時間目ともなるとお腹もすき始め、落書きでさえもはかどらなくなってくるし、ついつい余計なことを考えてしまう。
　教科書につらつらと落書きをしつつも、チラッと視界に入る窓の外。木々にくっついた雨粒が跳ねて、キラリと眩しく光るのを見逃すことはなかった。
　お日さまが、出てきた～♪
　なんてお目々もキラリと輝いたところで、
　バチン。
「あいたー」
　額にチョークか何かが飛んできた気がする。
　ハッと前を見れば、黒板の前で教師が睨みをきかせていた。
「岡野。どこ見てるのかなぁ？」
「あわ～。えっと～。たぶん、窓の外を……」
「うん、それはわかってるから答えなくていいんだよぉ」
「は、はいぃ～」
　こんなことではいけない、集中しなくては！　と思った丸美は、何を間違えたか落書きに集中することに。
　ただの落書きにいろんな色を塗りながら、七色のペンを見てハッとする。
（虹、出てるかな？　もしかして、今、空にはおっきな虹がかかってるんじゃないかなぁ）
　この日、丸美は４時間目は休講となっているので、屋上で虹を探すチャンスである。
　といっても、虹が見られるタイミングは限られている。気になって気になって、今度は木々の隙間の青空を求めて、頭をあっちへこっちへ揺らしながら窓の外を見て、
「岡野！」
「はいっ」
　またチョークがとんでくるかと思わず目を瞑ると、
「今日の授業はここまでだよぉ」
　キーンコーンカーンコーン。
　そっと目を開けた丸美は、先生にちょこんと一礼すると、教室をささっと後にするのだった。
「丸美、どこ行くのー？」
　なんてクラスメイトに声をかけられて、
「ちょっと見てくる」
「何をよー？」
「虹！」
「……うん、丸美らしいね」
　クラスメイトはほんわかと見送った。廊下を時に誰かにぶつかりながら走っていく丸美の後ろ姿を。
「早くしないと、消えちゃう！」
　丸美は屋上に着くと、扉を開けてとび出して、よっ！　と着地。
　びちゃっ！　と跳ねる水しぶき。
「あやや、まだ雨が残ってるよねぇ」
　塔屋からしずくがポツンポツンと落ちてくるし、まだまだ一帯は濡れている。
　でも、でもである。
「み、見えた～！」
　雨上がりの空に、七色に染まったアーチが架かっていた。
「きれいだねぇ～。すごいねぇ～。迫力だねぇ～」
　思わず感動して声が漏れる。
　その声を聞いて、アイオ・キャンドライトはうんうんと激しく共感していた。
　丸美はアイオの存在には気がつかず、ただただ虹を見て、近くで見ようと思ったのか、不思議な魅力に吸い寄せられたのか、思わず虹に向かって駆け出して……
　ずてーん。
「濡れちゃったよぉ。いったぁ～」
「おいおい、まさかふたり目かよ……」
　魚塚源三は、本日ふたり目となる屋上尻餅ガールに手を差しのばすと、よっこらせと引き上げるのだった。
「ありがとう」
「気にするな。水たまりから助けるのは慣れてる」
　アイオは「えへへ」と小さく笑って、３人はなんだかほっこり。
　廊下を走ってなんとか見ることのできた虹が空に溶けていくのを、丸美はじっと見つめていた。
「虹って、見てるとなんか起きてるのに夢見てるみたいな不思議な気持ちになるねぇ」
　少しずつ、虹は消えていく。
「ああ、さよなら。楽しかった。それと……ありがとう」
　虹は消えて失っても、かわりに新しい友情が生まれたようだ。
　お昼ごはんを一緒に食べようか、どうしようか。丸美は「ダイエット中だけど、いいよね」などと口癖をこぼし、みんなの会話に新たな虹がかかるのだった。