雨上がりの屋上｜リアクション

雨上がりの屋上

　授業中、校舎の廊下はひっそりとしている。
　教室から漏れる先生の声、たまにドッと沸く生徒たちの声が聞こえるが、それがかえって今いる廊下を寂しく思わせる。
　ポツンと居心地悪そうに立っているのは、とある女子生徒。
　制服に赤いベレー帽という珍しい格好をしている。
　廊下の鏡を見て、彼女がドキドキしながらその帽子をちょこっと持ち上げると、中からのぞいたのはかわいらしい猫耳だった。
　そう、彼女は寝子島にやってきた「ほしびと」のアイオ・キャンドライトだ。

「見かけない顔ね」
　階段を降りてきた桜栄あずさ理事長はピタリと止まって、廊下の向こうでうろうろしているアイオを見る。
　理事長はぶっ飛んだ人だが、生徒への思いはピュアだし、何かピンときたら声をかけることは日常茶飯事である。
　アイオは慌てて帽子をかぶって、引きつった笑顔で応じる。
　廊下の端と端で目をあわせるふたりにしばしの沈黙が流れ……理事長の好奇心と行動力は廊下をズンズンと進み出した。
（マズいですわ！）
　ドギマギするアイオだったが、そこでキーンコーンカーンコーン。
　鐘が鳴って教室から生徒たちがあふれ出すと廊下は雑踏と化す。理事長は話しかけてくる生徒に応じてるうちにアイオを見失ってしまった。

　やがて次の授業の開始を知らせる鐘が鳴ると、再び生徒たちは教室に入っていき、アイオは廊下にポツン。
（このままだとバレてしまいますわ）
　あわわあわわと右往左往して、窓の外を見ると北校舎の屋上が目に入った。
（そうだ、屋上なら誰もいないはず！）
　アイオは階段を駆け上がりながら、雨が降ってたことを思い出す。
（屋上に、出られるかしら？）
　途中、階上から降りてきた生徒とすれ違う。屋上の様子を聞いてみようかと迷うが、下手に喋ってバレるのも恐い。
（あ。髪が濡れてる……）
　静かに通り過ぎてゆく朝鳥さゆるから雨の匂いが漂ってきたように思えて、アイオは暗い階段の踊り場で足が止まってしまった。

　ダンダンダン。

　そこへ階下から迫る大きな足音。
　チラリと見えるのは、手に持った焼きそばパン。
　魚塚源三が焼きそばパンを買って屋上に戻ってきたようだ。
　源三はアイオのいる踊り場まで来ると、「はは～ん、さては～」とじろじろ見つめる。
「え、あ、いや、実は……」
　ほしびとであること、寝子高生でないことがバレた！　と言葉を失うアイオ。
しかし、源三の口から出たのは別の言葉だった。
「あんたもさぼりだな？」
「さ、さぼり……そう、そうですわ！　さぼりですわ！　授業なんてさぼってしまいますわ～！」
「おいおい、大きな声出すなって！」
　遠くから教室のドアがガラッとあいて、「誰かいるのか」という先生の声。
　慌てて自ら口を押さえるアイオ。
　上に行こうぜとサインを送る源三。
　ふたりはタタタッと駆け上がると、屋上に出て行くのだった。

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