雨上がりの屋上｜リアクション

雨上がりの屋上

「あら？　地面が濡れてる……」
　日が差しはじめてはいたものの、まだポツンポツンと僅かに雨が降っている。
　アイオが眩しそうにあたりを見渡せば、源三はズンズン歩いて金網へ。
「まだ少しだけ降ってるな……はっ！」
　と金網に拳を一発入れると、しがみついていた雨水がパッと飛び散って、アイオの服にもかかる。
「きゃ」
「スマン」
「いえ、大丈夫ですわ。雨水くらいなんでもありませんもの」
　地面の一部には、構造が悪いのか水が溜まってるところもある。
　アイオはわざわざそこへ歩いていくと、
「全然気にしないんですわ」
　とジャンプ一番、両足でばしゃーん！　と着地。
　もひとつジャンプして、クルッとまわってばしゃーん！
スカートがふわっと広がり、それを見てドキリとする源三は、慌てて言葉を探し始める。
「あ～、そうそう。俺は魚塚源三だ、よろしくな」
「アイオですわ。1年生の喜屋武あいおです」
　というのは偽名で、実際はアイオ・キャンドライトだが、ひとまず様子を伺うことに。
「へえ、１年生か。あんたもここでよくさぼってるのか？　入学して３ヶ月でサボり常習犯とは、やるな！」
「ほほ、ほほほ。そうですわね」
　屋上にも初めて来たアイオだが、ついウソにウソを重ねてしまう。
　動揺を隠すように再びくるくるとまわると、つるん。
　ばっしゃーーーん！
　水しぶきをめいっぱい飛び散らしながら、思いきり尻もちをついてしまった。
　源三は自分の顔にかかった雨水より先に、サッと手を差し出す。
「大丈夫か？」
「あ、ありがとうですわ」
　源三の大きく頼りがいのある手にしっかり掴まって、恥ずかしそうに体を起こすアイオ。
　その顔を、じーっと見つめる源三。
「あんた、どうもおかしいな……」
　アイオはピタリ。動きが止まり、冷や汗たらり。
「もしかして、バレました？」
「……ん、何が？」
「い、いえ、なんでもありませんわ」
「何がだ？　何がバレた？」
　アイオは余計なことを言ってしまったと後悔するも、源三の好奇心と、こうなると威圧感を感じざるを得ない大きな体にタジタジ。
「じ、実は……」
　こうして、彼女が1年生の喜屋武あいおではなく、猫獣人のほしびとアイオ・キャンドライトであること、今は猫鳴館の空き部屋を勝手に借りて住んでることが源三の知るところとなるのだった。
「なんだ、そんなことか。それなら全然バレてなかったんだがな」
「そうでしたか……。あの、最近来たばかりなので、まだよくわからないことも多くて、よかったら仲良くしてくださいね？」
「ああ、こちらこそな。なにか困ることがあったら、言ってくれ。だいたい授業かったるくなったらここ来てるから」
　ホッとしたアイオは濡れたお尻がようやく気になって、
「あひゃ～。まわると乾くかしら」
　と再びまわり出す。
「おいおい、またコケるぞ」
　という源三の忠告が届く前に……つる！　ばしゃーん！
　いつの間にか雨も止んで、おおいに笑って、さらに距離を縮めるふたりだった。

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