テスト勉強なんかよりチャーハンが食べたいです。｜リアクション

テスト勉強なんかよりチャーハンが食べたいです。

　鴇波羽衣の自宅に招待された神条誠一は、リビングで麦茶をすすっていた。
「ちょっと待ってて！　今すぐ作るから！」
　鴇波はエプロンを身に付け、調理の準備に取り掛かった。
　……だが、内心は不安だらけ。
（どうしよう！？　自分で炒飯作るのは初めて！　お母さんのお手伝いはしてたけど……うん、記憶を頼りに頑張ってみよう！）
「すっごく美味しいチャーハン作るからね！」
　だが、彼女の笑顔が数分後、半べそに変わる未来は避けられなかった。

　神条はキッチンから聞こえる鴇波の悲鳴に幾度も驚いていた。
「……大丈夫か？」
　一応、声を掛ける。
（もしかして、料理初心者？）
　しかしあの自信だし、もうすこし様子を見ようと思った次の瞬間！
「あれ？　ひゃわわっ！？」
　金属音やら重量物が雪崩落ちる音が轟く。
　流石に一大事だと神条はキッチンへ飛んでいった。
「本当に大丈夫か？」
「うーん、フライパン取ろうとしたら、手が届かなくてモノが崩れてきちゃったよー。って、誠一くん！？　だいじょうぶ、だいじょうぶだから！　あははは！　ほら、怪我してないし！　もうちょっとで出来るから！」
　目が泳ぎまくってる彼女に神条はもういてもたってもいられない。
「……手伝う。エプロン貸してくれ」
「え。あ、う、うん！　ありがとう……」
　エプロンを装着した神条は、早速手際よく道具を揃えて調理に取り掛かった。
　ニンニクと葱を軽く炒めたら　鶏がら調味料と塩、胡椒を配合してミキサーにかける。
　粘り気がでたら簡易ペーストの出来上がりだ。
「フライパンは、煙が出てるな。これくらい乾焼きしてからゴマ油をそそぐ。ご飯を入れてくれ」
「……あ、うん！」
　神条の手際の良さに見蕩れ、すっかりサポート役に収まってしまった鴇波。
　神条はかき回すようにご飯を撹拌。
　手首のスナップをきかせれば、ご飯がパラパラになって宙を舞う。
「この状態になったら具材を投入するんだ。豚肉と野菜、そしてさっきのペーストを入れてくれ」
「こ、これでいいかな？」
　鴇波が順番通りに具材を入れたあと、素早く神条がご飯を混ぜる。
　弧を描きながら宙を舞うチャーハンに彼女は息を飲んだ。
「誠一くん、もしかして料理得意……とか？」
「基本的に手先が器用なだけだ」
「そ、そういうものなんだ……」
　あとは仕上げに溶き卵を入れ、全体になじませて黄金色になったら完成だ。
　早速、２人は実食。
「美味しい……！」
　鴇波は感嘆の声を漏らした。
「ご飯はパラパラしてるし味付けも絶妙。こんな美味しい炒飯初めてだよ！」
「うん、美味い」
　神条も満足気だ。
「一応これって２人で作ったと言えるのかな？　でも、ほとんど誠一くんが作ったようなものだよね」
　鴇波は、急に神条の顔を見詰めて言った。
「あのね、あたし、もっと料理練習して、いつか誠一くんをびっくりさせるくらい上手くなるから！」
　そして鴇波はチャーハンをスプーンですくうと、神条の口元に差し出しながら告げる。
「だから……、待ってて」
　神条はスプーンの上のチャーハンを食べた。
　そして無言で頷いた。
「さて、テスト勉強もしようかね？」
「あ、そうだった……！」
　残念だが、甘いチャーハンタイムは長くは続かなかった。