嵐の夜に、猫鳴館にて｜リアクション

嵐の夜に、猫鳴館にて

　【２】
　菜園のネット張りを終えた真央、解理、切奈の三人は、鶏舎へとやって来ていた。というのも。
「てば崎にささ美にラン卵たちが、心配なのだ。鶏舎の補強をするのだ」
　と、真央が言い出したためだ。
　だが、鶏舎に来てみれば、そこに鶏たちはいなかった。いるのは、補強作業中の荒太郎とマウルの二人である。
「てば崎たちは、どうしたのだ？」
「ぼくが、会議室に避難させたよー。ここにいたら、危ないかもしれないからねー」
　真央の問いに、荒太郎が答えた。
「よかったのだ。これで、安心なのだ」
　小さく吐息をついて言うと、真央は二人を見やる。
「補強作業なら、真央ちゃんも手伝うのだ」
「ありがとうー」
「助かる」
　礼を言う荒太郎に、マウルもうなずいた。
　そんな真央に、解理が声をかける。
「ここは充分人が足りてそうだから、僕たちは他を手伝いに行く」
「失礼するのです～」
　切奈も言って、解理と共に踵を返した。
「手伝い、ありがとうなのだ！」
　真央は礼を言って、大きく手をふり、二人を見送る。そして、荒太郎、マウルの二人と共に、鶏舎の補強に精を出し始めるのだった。

　そのころ。
「避難勧告が出ている建物に、わざわざやって来るとは、とんだ物好きだね。……まさか、騒ぎに乗じて食事泥棒かい？」　　
　自治会会議室の前で、ドアに張られた張り紙に目をやっていた御剣刀は、背後から声をかけられ、ふり返った。
　そこに立っていたのは、天野だった。
「俺が食事泥棒？　するわけないだろう？」
　なんのことだと眉をしかめて返す刀に、天野は笑う。
「……冗談だよ」
「それにしては、性質が悪い。が、まあいい。訊きたいことがあって、来たんだ」
　言ってからふと、刀は台風が接近していて、それで学校も休みだったのだと思い出した。今まで関わって来た神魂関係の事件のまとめをやるのに夢中で、すっかり忘れていたのだ。天野に訊きたいことというのも、それ関連である。
　だが、思い出したと同時に、現実が戻って来る。
「この寮で台風をやり過ごすのは、厳しくないか？」
　あたりを見回し、刀は思わず訊いた。何もなくても、今にも壊れそうな建物だ。
「かもしれないな。しかも、今度の台風は、雹が降ったり吹雪になったりするかもしれないとの予報だ」
「おいおい、この時期にあり得ないだろう」
　冷静に返す天野に、刀は思わず目を見張る。
「気象台が出した、予報だ」
　小さく肩をすくめて言うと、天野は付け加える。
「……だが、厳しいと言われて退くほど、か弱い人ばかりじゃないよ。この寮の面々は」
「さすがと言うべきか。……ところで、神魂か？」
「確証はないが……かもしれないな」
　軽く眉をひそめて問う刀に、天野もうなずいた。
「それで、逆巻は何をしているんだ？」
　なるほどとうなずき返したあと、刀は尋ねる。寮内の壊れやすそうな箇所をチェックして、重点的に補強するつもりだと答える天野に、刀は言った。
「じゃあ、早くすませよう。こういう時は、人手が多い方がいいだろう？　手伝うよ」
「ありがたいが……ここにいて、帰れなくなると困るんじゃないのか？」
「その時はその時だ」
　問われて返す刀に、天野はうなずき、手伝ってもらうことにした。
　補強や修理の的確な指示はできるが、手先は不器用だという自覚はある。
「雨対策も大事だけど、骨組みからへし折られたらたまらない。……壁や柱の強化も必要かもしれないね」
　ふと思いついて言うと、天野は刀を促し、歩き出した。

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