「やあやあ、みんな。よく集まってくれた。参加に心から感謝する」

　博士という名で紹介された白衣の女性が、一同を前に謝意を述べた。
　今日のイベントには主催者側の2人と1台、それに参加者側の10人と1匹（？）が集まった。

「仕事柄寝られないこともありますしねぇ、夜ふかしは得意ですよ」

　ウェーブのかかった黒髪と黒目をした男性――白峰 さくらがのんびりと言った。
　博士とは逆に、女性のような名前だが男性である。
　軽装で、唯一目につくのはタブレットだろうか。
　知られて騒がれると面倒ということで、あまりおおっぴらにはしていないが、さくらはそこそこ売れっ子のイラストレーターである。
　今日は面白いものが見られそう、ということで参加した。


（こんなはずじゃなかったのに……）

　と、不満たらたらなのは城山 水樹だ。
　Tシャツに七分丈のパンツとラフな格好だが、どこか普通の女性には持ち得ないオーラがある。
　それもそのはず、彼女は某雑誌の読者モデルをしているのだ。
　ゆえに、本来であれば夜更かしなどお肌の天敵以外の何物でもない。
　別に参加するはずだった友人が参加できなくなり、彼女を指名したため、仕方なく参加する羽目になってしまったのだ。
　
（覚えてろよー！）

　と、思いはするものの、あまり深く根に持つタイプではないのが彼女のいいところ。
　楽観的・快楽主義がモットーである。


「普段は夜更かしなどしませんが勝負となれば話は別です」

　読んでおきたい本もありますから楽勝でしょう、と口調に生真面目さをにじませるのは神助 天佑。
　今どき珍しいおかっぱ頭に童顔の、しかし目つきには力がある少年である。
　どこか古き良き時代の書生めいた格好だが、所持品に違和感がありすぎる。
　彼と同じくらいの大きさの熊のぬいぐるみと、一冊の本である。
　ぬいぐるみはともかく、本のどこがおかしいのだと言われるかもしれないが、よく見て欲しい。

　『デートで使えるチョークスリーパー～ドキドキ☆密着編～』

　このタイトルである。
　この本はデートで彼氏と密着できない女の子に向けられた指南書で、図解入りで正しいチョークスリーパーのやり方が300ページにわたり記載されている。
　裏表紙の値段表記の上に100円と書かれたシールが張られているのもご愛嬌。
　男性である彼がなぜこれをとか、そもそもタイトルからして問題ないのかなど、突っ込みどころ満載である。
　恐るべし、天然むっつり。
　ぬいぐるみについては後述する。


「健康を考えると夜更かしのし過ぎはいかんと思うがね」

　旅鴉 月詠はクールな声で博士に声をかけた。
　赤目白髪ロングが特徴的な、落ち着いた物腰の少女である。

「やあ、キミか。また参加してくれるとは嬉しい限りだ」
『お姉ちゃん。今日もよろしくね』

　博士とβは笑みを深くした。
　そう、月詠が博士たちと会うのはこれが初めてではない。
　マイペースで感性の読みづらい彼女の琴線の一体どこにふれるのかは分からないが、博士たちとはよく顔を合わせるのである。
　いつも持ち歩いているスケッチブックも見慣れたものだ。


「お久しぶり。またよろしく」

　月詠同様、御剣 刀も3度目となる顔合わせだ。
　鋭い眼光と柔和な印象という、天佑に少し似た雰囲気を持つ彼だが、彼の方が年長者らしく大人びて見える。
　武道を嗜む者の常か、ピン、と一本筋が入った姿勢の良さも清々しい。
　
「参加ありがとう」
「ホント刀君、物好きだねー」
『小森、ひとこと余計ー』

　主催者3人とももうすっかり打ち解けているようだ。


「暫くぶりだねβ。随分と会話が流暢になった」

　そう話しかけるのは八神 修である。
　彼もこれでβと顔を合わせるのは2回めだ。

「データの蓄積は進んでいるようだな。ほらGAO改、βだよ」

　修が抱え上げたのは、もこもこ猫ロボットGAO改。
　音声入力で簡単な命令をこなし、学習能力のある人工知能も備えている。

『あ。GAO改！　また会ったね！』

　βはノートPCの中で手を振った。


「大学の実験と聞いて！　生物学ガールとしてはちょっと興味がありますよねー。まあ、生物学とは違いますけど」

　茶色の三つ編みに大きな緑の瞳が愛らしい少女、屋敷野 梢は明るくそう言った。
　彼女は寝子高の生物部部長で、応用力・直感力に長けた優等生でもある。
　知的好奇心がくすぐられたのであろうか、参加を決めたようだった。
　夜更かしは得意との自負もある。


「……」
「？」

　小森は自分たちの方をじっと見つめる視線に気づいた。
　見れば、小学校低学年くらいの少年がこちらを見つめていた。
　右目に眼帯をしている。

「君も参加者かな？」
「う……うん……」

　小森がおいでおいでと手招きすると、トトトっと駆け寄ってきた。

「参加してくれてありがとう。お名前は？」
「夕霧 真ですっ」

　そう言って、全国のショタ萌えさんたちが悶そうな顔でニコっと笑った。
　つるつるのひざ小僧が眩しい。

（う……可愛い……。僕、そっちの気はないつもりなのに……）

　落ち着け、落ち着けと念じている小森は、既に危ないのではないだろうか。

「君くらいの歳の子だと夜更かしは大変じゃない？」
「夜更かしは……施設の子の中では遅くまで起きてる方かもだけど、やっぱり苦手かも」
「だろう？（……施設？）」
「でも、僕が眠る前に他の人達をみんな寝かせちゃえば良いんだよね？……うん、頑張ってみるっ」

　僕はノーマル、僕はノーマルと言い聞かせる小森は、やっぱり手遅れかもしれない。


（刀お兄さんが来てますね、チャンスがあればからかうのも楽しそうです）

　同じく小学生だがこちらは5年生の夕鈴 翼である。
　銀髪ポニーテールに大きな赤い瞳の少女は、流石に水樹ほどではないものの、年齢の割に発育のよい身体をしている。
　そして考えていることがそれである。
　字面ほど他意はないようだが、将来が恐ろしい。


（夜更かしするなら、みなさんといっぱい遊びたいですね……！）

　まだ秋とはいえ遠く遠くに冬の足音がひっそり感じられるこの頃、マフラー、ストールの常備は体調管理の一環、と語る少女の名は雪乃宮 心花。
　頑丈だけど丈夫ではない、とは言い得て妙。
　茶髪茶目の童顔でどこにでもいるような、でもどこか周囲をほっとさせるような雰囲気の少女である。

　
「さて。全員集まったようだね。そろそろ始めよう」

　夜更かしバトルロワイヤル、開幕。