レッツ「夜更かし」！―睡眠とは何か？―｜リアクション

レッツ「夜更かし」！―睡眠とは何か？―

　修は普段通りの夜を過ごしていた。
　彼の夜はいつも遅い。
　学術書と参考書と問題集で、宿題と自学自習をしていれば、時間などあっという間に過ぎてしまう。
　勉強は趣味であり日課であった。

（こうしたイベントに足を運ぶことがあっても、日々の予定を遅らせるつもりはないからね）

　彼が眠気覚ましに持ち込んだのは、ポット入りの濃い緑茶である。
　カフェインといえばコーヒーのイメージがあるが、コーヒーカフェインは日本人に効きづらいという説を耳にして以来、彼は緑茶を好んでいた。

（ビタミンや繊維質も摂れるって聞くし）
　
　ふと目を向けると、テーブルの上でβとGAO改がじゃれている所だった。

『GAO改、お座り！』

　シュタ！

『お手』

　ハシッ！

『おかわり！』

　ハシッ！

「こらこら。GAO改は猫だぞ。それは犬の芸じゃないか」

　博士が苦笑しながらいさめる。

「しかし、そういうファジーなところまでカバーしているとは、GAO改のAIは素晴らしいな」
「光栄です」
「私たちもうかうかしていられないな、小森」
「ふぁー……全くです」

　日中と変わらない様子の博士や修と比べると、小森はいささか眠そうだった。
　
「研究の進捗はどうですか？」
「問題ない……と言いたいが、ここからはなかなか難しくてね」
「と、言うと？」

　修の目が興味深げに細められた。

「ソフトウェア的な問題はほぼ解決している。ここからはハードウェアとの境界的な問題――つまり、心身論の領域だ」
「そこまでいくと、哲学ですね」
「違いない」

　共有できる意見を得て、2人は声なく笑った。

「俺も興味あるな」

　刀が話に加わった。

「クオリアの問題はどうなったんですか？」
「それは解決した……いや、保留にしたというべきかな」
「俺はもっと早い段階に興味がありますね。そもそもβはどうやって生まれたんですか？」

　修の問いに、博士は少し口をつぐみ、遠い目をして言った。

「ずっと信じていたんだ。この手で心を生み出せるに違いない、と」
「実現したじゃないですか」

　刀の指摘に修も頷く。
　しかし――。

「私はね……βを、生み出せなかったんだ」

　博士はこの話はいったん終わりにしようと2人に告げ、それで何かを察したのか、2人は異論なくそれぞれの席に戻った。
　一連の様子を、さくらはタブレットに描いていた。