レッツ「夜更かし」！―睡眠とは何か？―｜リアクション

レッツ「夜更かし」！―睡眠とは何か？―

「あっ、ジンジャーミルクティー入れてきたのですが、みなさんも飲みますか……？」

　心花は大きめの水筒を取り出して言った。

(おばあちゃん『睡眠に効く』って言っていましたので……きっと夜更かしにピッタリ！……という意味ですよね！)

　もちろん反対の『安眠できる』という方の意味合いなのだが、特に断る者もなく皆受け取った。

『私だけ飲めなーい』
「あ。ごめんなさい、βさん」

　画面に向かって手を合わせていた心花だったが、不意にくいくいと袖を引かれた。
　下を向くと、真がにっこり笑顔で立っていた。

「おれいー」
「えっと。いいんですよ、そんなの」
「いいから、ここに横になってー」

　座ってぽふぽふと膝を叩く真に、心花は最初の内動揺していたが、真の笑顔に一点の曇もないことを見て取ると、言うとおり膝枕された。

（よく知り合いのお姉ちゃんにひざまくらされて耳かきされると、気がついたらねちゃってるから……きっとお姉ちゃんやお兄ちゃんたちにもきくはず……！）

　慎重に慎重に、優しく優しくを心がけて、真心を込めて耳かきする真。
　あふっ、と小さく自分のあくびは噛み殺して。

「どう、かなぁ？」
「う、うん。気持ちいいです」
（けど、少し気恥ずかしいのです……）

　やっぱり固辞するべきだったかも、と心花はちょっぴり思った。

（えっと、これでもし駄目ならマッサージとかが良いのだったかな？）

　ちっちゃなおてて――もとい、小さい手でむぎゅむぎゅと肩をマッサージし始める真。

『とにかく相手を横にさせる事であるな。その後心地良い事をすればイチコロであるぞ。我を信じよ』

と、いい加減なような的確なようなアドバイスを真に吹き込んだのは、施設のお姉さんである。

（でも僕の力でしっかり効いてくれるかなぁ……？）

　邪念のかけらも感じさせないそんな真の様子に、心花はほっこりした気持ちになった。
　ショタコンなどという俗っぽいものではない。
　可愛らしいものを見れば、そして乙女であれば、心がほころぶものである。

（……あれ？　何だか眠い……です？）

　ジンジャーミルクティーも飲んだはずなのに……と思う心花だったが、前述のとおり、大本から勘違いである。

（まさか……『睡眠に効く』って……『よく眠れる』の意味だった……のでしょうか……）

　うとうと、目をシパシパさせながら必死に目を開けるが、睡魔はいかんともしがたい。

（今になって効いてくるなんて……遅効性の毒……みたいです……）

　心花はかなり辛抱強く眠気と戦っていたが、その甲斐虚しく、そのまま眠りに落ちていった。

「よかった……お姉さんをねむら……せ……」

　こてん、と真もダブルノックアウト。
　2人そろって眠る様は、見る者の目にとても微笑ましく映った。
　さながら、聖女と天使。
　パチリ、とさくらがタブレットで写真を撮る。
　月詠も鉛筆を走らせる。

「俺が運ぶよ」

　刀が2人を起こさないよう、そっと布団へと運んだ。
　寝かされた真の近くにいた水樹は、彼が、

「うぅ……お母さん……お父さん……お姉ちゃん……」

　と、うなされているのを聞いた。
　真の幸薄い境遇を水樹は知らない。
　だが、真の声には水樹の胸をえぐるような痛々しさがにじみ出ていた。

（あどけない振りをしているけれど、きっと少なくない重荷を背負っているのね）

　そんなことを考え、ますます眠れなくなる水樹であった。
　無意識に、であろうか。
　心花は真の手をぎゅっと握りしめた。

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