レッツ「夜更かし」！―睡眠とは何か？―｜リアクション

レッツ「夜更かし」！―睡眠とは何か？―

（この勝負は僕が貰ったも同然ですね。僕は熊五郎がなければ熟睡できません）

　天佑は自信たっぷりに心中で独白した。
　熊五郎とは、彼が持参した例の大きなぬいぐるみのことである。
　今は彼の手元にはなく、小森が預かっている。
　毎晩のように天佑の寝相（関節技や絞め技）を受けており、腕や足は布目から破れて綿が飛び出て目の片方が糸で垂れている。
　控えめに言ってもかなり不気味である。

「さて、本に集中するとしましょう。先ほど頂いたじんじゃーみるくてぃーも、大して効果は……すぅ……」

　天佑、轟沈。
　やれやれ、またか、と刀が担ぎ上げようとしたその直前。

「んー！」

　何やらうなされたように顔を歪め、唸りながら周囲を手で探り始めた。

「起きた……のか？」

　刀が様子を伺っていると、天佑の手が刀の足に触れた。

「！？」

　天佑は寝顔が安らかになると同時に、チョークスリーパーを極めにかかってきた。

「ふぅ……危なかった……」

　武道を嗜む刀でなければ、餌食になっていたこと請け合いである。
　標的を失った天佑はまたむつかるようにしてごろごろ転がり、ころがった先は――。

「え！？　な、何なの！？　きゃあ！！」

　一向に寝付けないでいる水樹の所であった。

「く、苦しい苦しい！　苦しいし、セクハラ！　離してってば！」

　慌てて駆け寄った刀が両者を強引に引き離した。
　また標的を求めてごろごろする天佑。
　大人しそうな顔をして、とんだ寝相の悪さである。
　
「はぁ、はぁ……。何なのよぅ……もう……」

　水樹にとって、今日は厄日である。
　放っておくと真や心花にも被害が出そうなので、刀が適当に軌道を調節しているが、これでは埒があかない。

「あのう……刀お兄さん」
「ん？　夕鈴ちゃん」

　声をかけてきたのは翼である。

「要は抱きつくものがあればいいんですよね？」
「ああ」
「あの熊さん、返してあげればいいんじゃないでしょうか？」
「！」
「はいこれ」
　
　会話を聞いていたのか、梢が小森から受け取った熊五郎を差し出す。
　刀は未だごろごろしている天佑の動きを読むと、ちょうど抱きかかえやすい所に熊五郎を放った。

「！」

　熊五郎をキャッチした天佑は、とても安らかな顔で、チョークスリーパーを極め始めた。
　こうして天佑の悪すぎる寝相問題はどうにか解決を見た。
　シュールな熊五郎と安らかな寝顔の天佑の光景も、さくらのタブレットに納められた。