あなたのそばに蕎麦屋すすきのーすすきのー｜リアクション

あなたのそばに蕎麦屋すすきのーすすきのー

　カラリと戸が開き、やってきたのは支援部の三人。

「こんにちは」鴨居に長身をぶつけないように、暖簾をくぐる御剣刀。

「今日のお昼はおソバ、おソバ♪」軽やかにリズムをとるのは千鳥雅人。ぴょこんぴょこんとアホ毛が揺れる。「楽しみだな～！」

（前々からお名前は伺ったことがありましたが、こうしてお邪魔するのは初めてですね……）
　落ち着いた様子で、浅山小淋は店員に頭を下げる。

　彼ら三人は、寝子高の学生活動を支援する『支援部』の面々である。
　体育祭、選挙、球技大会など、最近の寝子高では様々なイベントが目白押しで、彼らは息をつく暇もない。
　休日も返上して活動に勤しむ。ひとつ仕事の区切りが見えたので、遅めの昼食ということになったのだ。

『三人で蕎麦でも食べに行きましょう』部長である小淋の提案に、三人は一も二もなく賛成。
　来店経験ありの刀のすすめにしたがって「すすきの」に向かったのだ。
　寝子電から見える海岸風景はすっかり秋の色。
　駅からおりた三人を、ひんやりした風が見舞う。
　絶好の蕎麦日和だった。

「いらっしゃいませー、あなたのそばに蕎麦屋すすきのーすすきのー」三名様と確認してから、五月は座敷に案内する。

「小淋チャン！　チャオチャオ！」セレッソが小淋に声をかける。
　修も小淋に片手を挙げて挨拶。
　店主にすっかり気に入られた修は、セレッソ、フィーナと一緒に蕎麦掻を振舞われている。

（私たち以外にも、学生のお客さんがいらっしゃってるみたいですね）
　世話焼きで他人の頼みを断れない性分の小淋。
　頑張り屋で気遣いが濃やか、そして事務能力の抜群の高さと鋭い明察。
　頼られることが多く、自然顔も広くなった。

「ちょっと頑張りすぎたから、もうお腹ペコペコ！」ほわんとした笑いを浮かべて、雅人がお腹を押さえる。「肌寒くなっちゃったし、こんな日はあったかいお蕎麦がいいねえ……。何を頼もっかなー」
「薄野、鴨南蛮を頼むよ」刀がさっそく注文する。限定メニューということで、食いしん坊万歳の彼は目敏くチェックを入れていたのだ。「二人は何を頼むんだ？」
　期間限定メニューというのに心を惹かれた。さっとペンを走らせ、小淋はスケッチブックを提示する。

『私はきのこそば定食でお願いします』

「あわあわ、ちょ、ちょっと待ってー！」あっさり決めてしまった二人に慌てふためき、雅人はメニューを玩味する。「じゃ、じゃあ俺はサンマそば定食を頼もうっか！」
　秋といえばサンマ。雅人の選択に、二人も笑顔を向ける。

　注文を復唱し、挨拶する五月。
「蕎麦屋すすきの真心込めて、美味しいお蕎麦をお届けします！
　それでは、少々お待ちくださいませー！」
　言った後で、そっと刀と目くばせ。
　同じ寝子高生で、旧知の仲の二人。けれど、店に立てば客ともてなし役の関係である。