あなたのそばに蕎麦屋すすきのーすすきのー｜リアクション

あなたのそばに蕎麦屋すすきのーすすきのー

　今日はいろいなことがあった。
　普段より少しにぎやかだった気がする。
　今日も楽しい一日だった。

（もちろん接客業ですから、楽しい事ばかりじゃないですけど……。
　それでも楽しい事のほうが、ぐんと多いです。

　……こんなに楽しくて良いのか、って思うくらいです）ふっふ、と五月は笑う。
　
　相変わらず英語と炭酸は苦手だけど、でも五月の前途は洋々と広がっている。

　暖簾をしまおうとして、彼女は夜空を見上げた。
　
　先ほどの壮麗な夕暮れは、もちろんない。
　水平線から夜の紺色が押し寄せ、朱金の黄昏を飲み込んでいく。
　恐ろしく迅速な雲が、灰褐色、濃紺、そして漆黒へと、色を刻々と変じる。

　その彼方に、白銀の光を放つ星。
　五月は眼裏に、その冷たく悲しいきらめきを思い浮かべた。

　－－あれは金星。宵の明星。

　夜空いっぱいに広がる銀河の光に飲み込まれ、その姿は彼方に沈んでいる。
　
　まだ若い葡萄色の南の空に、たった一つ輝いていた星。
　あれは金星。惑いの星。
　たったひとつ輝いていたそれは、孤独だった。

　夢の途上にあるとき、人は誰も孤独だ。

　そんな時、孤独ながらも手をつなぎ、同じものを見て、笑顔を交せる仲間がいてもいい。

　－－いつでも、あなたのおそばに。

「蕎麦屋すすきのー、すすきのー」

　五月の澄んだ声は、潮風にのって、やわらかに芒の海を流れていった。

＜了＞

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あとがき

担当マスター：ぱーすぺ
ファンレターはマスターページから！

ありがとうございました！
あまりひねらずに「すすきの」さんの雰囲気を大切にさせていただきました。
私も客の一人となって、カウンターでみなさんを観察させていただいたような気分でした。

実は、アクションをいただいて、イメージをつかむのにいろいろな曲を聴いていたのですが、
ふと『菊次郎の夏』のサントラを聴く機会がありまして、

「これ、『正解』じゃないかな……」

と思い、それで一気にイメージが固まったということがありました。初めてです。
これが正解かどうかは、皆様にお任せしたいと思います！

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