あなたのそばに蕎麦屋すすきのーすすきのー｜リアクション

あなたのそばに蕎麦屋すすきのーすすきのー

　朝の日差しが、旧市街の街路を照らし上げる。
　普段は早朝から元気な声の絶えない旧市街だが、日曜、それも秋の気配の濃い休日とあって、まだ柔らかなまどろみの中に、すっぽり包まれているようなようすである。
　立ち並ぶ店の一軒、その軒先がカラリと開いて、少女が手にした暖簾を掲げた。

「すすきの」

　蕎麦屋すすきの。由緒ただしき、旧市街の名店のひとつ。
　薄野五月はその店の長女。寝子高に通う傍ら、祖父や兄の手伝いをし、今では「すすきの」の顔の一人になっている。

　振り仰ぐと、すでに陽の高く上がった空に、鳶が旋回してチチチと鳴いた。
「今日もええお天気ですねー」ふっふ、と五月は眼鏡を光らせて笑った。
「お天道さまも見てくださっとりますし、今日も一日頑張りますよー」

　差し込む光に目を側めながら、五月は澄み渡った空気を深呼吸し、すこし大きな声で口ずさんだ。

「あなたのそばに蕎麦屋すすきのーすすきのー」

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