秋風ボートレース！｜リアクション

秋風ボートレース！

　高らかなサイレンとともに、一斉にスタートが切られた！

　まっしぐらに飛び出した船がある。
　どっごーん！
　未沙の極限チューンナップボート！

「ああ、これよ！　これよぉぉぉぉぉ！！！！」

　観客が度肝を抜かれる勢いで、未沙はぶっとばしていく。
　レースは寝子島一周。少なく見積もっても三時間はかかる。
　ペース配分。レースメイキング。
　一切考えていなかった。
　燃料の続く限り、飛ばして飛ばして飛ばしまくる！

　紺碧に染まる秋の海を、常識はずれの速度でぶっ放す白銀の弾丸！
　限界という壁をぶち破る、音速の進化型（フォーミュラー）！

「ああ、イイ、気持ち良いィィィィィ！！！！！」
　興奮に染め上げられた歓喜の声が、海原にこだまする。
　
　それから離されて、二位につけるのは蛇那伊。
　彼の航法は、他の参加者の常識をはるかに超えていた。

　手漕ぎボートに鉄板で補強しただけの、武骨な代物。
　古代人のカヌーのようだ。
　予備のオールを担ぎ込み、それで準備は終了だ。

　予定時刻より早くスタート地点につき、彼は小山の様な裸体を晒し、呼吸を整えていた。
　大地を震わせるような荒ぶる呼吸。高まる鼓動。練り上げられる気迫。
「勝負ごとなら、戦闘モードで挑むのが礼儀よね」
　外気に慣れて、心身を世界と合一させる。中国拳法の秘術だ。

　蛇那伊は正攻法を取る。
　オールを大きく振るい、全身の筋肉を収斂させて、水中に突き入れる。
　腕、背筋、腹筋、脚、全ての筋肉が緊張する。
　かつてエーゲの海を自在に漕いだギリシアの民、その肉体美を思わせる。
　水中のオールは大きく捻られ、面を大きく取って爆発的な推進力を得る。
　二輪の水車が、水柱を噴き上げるかのようだ。
　ただ二本のオールだけで、エンジンを上回る推進を得る。
　彼ならではの、力感に溢れた業だ。