秋風ボートレース！｜リアクション

秋風ボートレース！

　そして、やや遅れて……。
「ドラゴン・レディー、推参！」
　練習の甲斐あってか、なんとか上位チームに付けてきたレディー。
　このあたりになっていると皆、かなり抑えた速度になってはいるが、それでも大健闘である。
　鼻息荒く仁王立ちになるレディー。
　アホ毛がびりびりとふるえる。

「ドラゴン・レディ？　一体何者なんだー」精一杯の優しさで呟く刀。

「ほんとに、誰だろうなー」豪も呟く。見た事あるような気もするが、正体を隠してるなら触れないほうがいいんだろう。

　秋と言えば紅葉だが、この海には、おびただしい量の『棒』が積み上げられた。
　

　その時。
「おほほほほ！　ドラゴン・レディー！　今日がお前の命日！」
　高笑いとともに、背後から追撃する者がいた。

　羽生碧南、いまはユニコーン・ガール。
　手早くボートを漕ぎながら、レディーに肉薄する。

「ぬうっ……ユニコーン・ガール……」ぐっと拳を握るレディ。

　おっとりしているようで、碧南は周到だ。
　原動機付きボートを見て「あれだけボロっちいなら、チューンナップしてもたかが知れている。オールで漕いだ方が方が早い……ということは手漕ぎボートでも勝算はある」と即座に判断した。
　当日の海流などの気象情報も綿密に調べ、どのポイントであれば距離を稼げるか、どのポイントであれば様子見をし、慎重にすべきかを見極めた。
　バスケでも、相手チームの研究は緻密に行う。
　大会出場経験もある碧南ならではの情報収集能力。
　そして、その結果、導き出された答えは……。

「高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対処」

　それじゃただの行き当たりばったりじゃないか！　とどこからかツッコミの入りそうな結論だ。
　しかし、ボートの世界では「ベストよりベターを選べ」という言葉がある。
　碧南は老練な戦士にも、不世出の戦略家にもなりうる！
　天気は予期しないところで変化する。ならば、プランは不要！

　そうして、対峙する両雄。
　レディー対ユニコーン・ガール。
　武器なき戦い。鳴り渡る終末の笛（ギャランホルン）！

　指を突きつけ、碧南が叫ぶ。
「えー、えーと、レディー、お前のカーチャン、でっべっそー！」
　一同がずっこける。
あまりにもしょーもない煽り。
　碧南の、人の好さがもろに出てしまった。
「ぬ、ぬううう！！」その挑発に、あっさり乗るレディ。顔を真っ赤にして言い返す。
「なんだとー！　でべそ言うもんが、でべそだー！」
「へへーん！　おたんこなすびー！　ズルッパゲー！」
「ズルッパゲーってなんだー！」絶叫するレディー。「お前なんかな、学校のセンセーに『おかあちゃん』って言って、笑われればいいんだー！」
「なんだとー！　バスケのボールが空気バスバスで、一人だけ練習できなくなっちゃえー！」

　あまりにもレベルの低い言い争い。小学生の方がましである。
　聞くに堪えない。