秋風ボートレース！｜リアクション

秋風ボートレース！

（こいつが、親玉……）
　豪は、逆立つ髪がびりびり震えるのを感じた。
　この世ならぬ、妖しいオーロラの様な色彩の真珠ザメ。
　その中でも巨大で、おぞましい姿をした化け物。
　ＵＭＡの中でも、このように奇怪なものはまれだ。円は好奇心を引かれる。が、こうやって自分の敵として相対してみると、ぞっとしない。
　
　巨木のごとくぐらりと傾いで、ハンマーヘッドはレディを見据える。
　宇宙生物の瞳。いかなる感情も、そこには見いだせない……。

　そのとき、レディーの船を掴んで、何者かが間に割って入った。
　ギラリと光る凶眼。

　廿楽龍司。
　先ほどの、うつろさはきれいになくなっている。
　かわって、彼を満たすのは、怒りと殺気。
　
　海流に流されるままになり、ついはぐれてしまった。
　様子の変化に仰天し、真っ先に考えたのは女性の安否。
「くそぉぉぉ！！！」
　ボートを駆使し、灰色の海面を疾駆する。目指すポイントまで遠し、と見るや、ボートを岸へ蹴りつけて、鮫のうようよする海中に身を躍らせる。
　弾丸のごとき潜水に、鮫もたじろぐ。
　息継ぎなしの潜水だけで、プールを往復できる彼だ。

　海水を吐き捨て、鮫と対峙する龍司。
　鮫相手でも喧嘩スタイルだ。
　構わずケンカキックを鮫の腹にブチ込む。全く効果なし、と見るや、鮫の頭部をがっちりヘッドロックし、そのまま陸へ向けてブン投げる！
　投げっぱなしジャーマン！
　プロレス技の中でも優美なジャーマン・スープレックス。
　美しさを破壊しても、攻撃力を求めた危険な改良系。
　今の彼にふさわしい技だ。
　鮫を追って、陸へ疾走する龍司。
　その背が「逃げろ！」と叫んでいた。

（へえ……）豪は、顎に手を当てていた。
　人は見かけによらぬもの。ああもやる気のなかった彼が、ここまで男気を見せるとは。
　潜水能力。格闘センス。そして、女性に対する優しさ。
　どれも、冒険家には不可欠なセンスだ。
　なかなか難しかろうが、いずれ冒険を共にできる時があれば、楽しいかもしれない。

「いい加減、大人しくしやがれっ！」
　絶叫し、蹴撃の嵐を鮫に見舞う龍司。
　鼻先に鮫の神経は集中している。間断なく、相手に攻撃を続ける龍司。
　それでも抜群な相手のタフネス。
「うらああぁぁ！」
　龍司がぶっちぎれた。
　一抱えもある鮫を掴んで、海にぶち込む。
　盛大な水柱が上がった。

　再び体を持ち上げるハンマーヘッドシャーク。
　だが、身構えた龍司を襲ってくることはしない。

　沈黙が、世界を支配する。

　やがて鮫は、くるりと身を翻すと、海中に没していった。
　それに続くかのように、他の真珠ザメも、水域から離れていく。