【体育祭】白黒つける、玉入れニャン！｜リアクション

【体育祭】白黒つける、玉入れニャン！

　白い猫耳カチューシャを付けた旅鴉月詠が校内を歩く。手には団扇を持っていた。人々で賑わうグラウンドを無視して部室棟に直行した。
　二階にある美術部のドアの手前で用心深い眼を周囲に向ける。ふむ、と納得の声で速やかにドアを開けて入った。
　画材や資料が置かれた棚の前を素通りして、奥に置いてあった箱の前で立ち止まる。上部に赤い文字で『開封厳禁』と書き殴られていた。貼られたガムテープの端を爪で引っ掻く。
「開けられた形跡はないね」
　涼しげな顔で月詠は一気にガムテープを引き剥がし、両手で中身を取り出した。人間大の真新しい着ぐるみが全貌を現した。早々に割れた背中から中に潜り込んだ。
　萎れていた着ぐるみの背筋は伸びて命が吹き込まれた。茶色のテンガロンハットの鍔を突き破るようにして白い耳が立っている。草原のような色のマントはズボンの裾まで広がり、青い空を思わせるコートのボタンは七色の虹のように煌めいていた。
　月詠は愛らしくも凛々しい白猫の姿となった。猫の手で団扇を握って扇いだ。左右で試して、その場で軽く足踏みを繰り返す。
　月詠は無言で部室を後にした。頭を左右に振りながらグラウンドへと向かった。