秋の夜長は一回休みなのさ｜リアクション

秋の夜長は一回休みなのさ

「……」
　旅鴉月詠は無言で筆を走らせている。
　自室に戻った月詠は、今朝の出来事から受けたインスピレーションを、忘れぬうちにキャンパスに描き始めていた。
　白い猫、美しい月、明け方の空気。そしてたった一匹の猫のために、集まった人々。

「……」

　何故だか、その風景を刻んでおきたいと思った。
　芸術に傾倒するあまり、失いたくないもののひとつだと、月詠の無意識が感じ取ったのかもしれない。

「……うん、悪くない」

　筆を置いた月詠は、呟いた。

☆

「よぉ、アマリのおじさん！！」
「――天利のおじさん、だ」
　明けて朝。
　旧市街から小学校の通学路の辺りをふらふらと歩いていた天利は、また結緑一色に背中から声をかけられた。
　一色が視線を上げると、昨日アイロンをかけてやったジャケットを着た天利が眠そうにしている。
「なんだおじさん、眠そうだな？　寝不足――夜遊びか？」
「……そうだな。夜遊び、だな」
　かなり遅い時間まで酒を飲んでしまった天利。神社から自室に寄って軽い朝食を済ませて出てきたものの、やはり徹夜は堪える。
「いや……もう若くねぇわ」
　大きな口を開けてあくびをする天利の背中を、一色はまたバンバンと叩いた。
「しっかりしろよ、ばぁかっ！　そんなことじゃ寝子島の平和は守れないんだぜ！？」
「あー……そういうのは坊主に任せるわー……」
　いかにも眠そうな応答の天利。火のついていない煙草が、口の端から落ちそうだ。
　本格的にダメは感じの天利の様子に、一色はさすがに心配になってきて、その顔を覗きこむ。
「なぁ、ホントに大丈夫か？　何か事件でもあったのか？」
　軽く頭を振った天利は、ぽつりと呟いた。

「あー……そういやぁ……」
「何だい、おじさん？」
「今度は、ズボンの穴でも縫ってもらうかぁ……」

　ジャケットの裾で、ズボンのお尻に空いた穴を隠しながら。

☆

「……」

　だいぶ陽も高くなった頃、南戸河蔵人は目覚めた。
「……あれ？」
　目が覚めてから自室の寝床に寝ていたことに気付く。
　そういえば、夕べは出会った探偵さんと共に随分と飲まされたっけ。

「……どれくらい飲んだんだっけ」

　さすがに飲みすぎたかな、と蔵人は起き上がって洗面台に向かった。顔を洗うと簡単に朝食の準備をする。
「……すでに昼食か」
　時間を見ると、もう昼前。寝坊は寝坊だが、時間の制約がないのが自由業のいいところだ。
「あ、そうだ」
　辛うじて二日酔いは免れたかな。そんなことをぼんやり考えながら、蔵人はメモ帳を取り出した。飲みながら幾つかのことを話し、それらをメモに取っていたことを思い出したのだ。
「あー……読めるかな」
　しかし飲みながら取ったメモはぐちゃぐちゃで、自分でも何を書いているのか分からない部分がある。苦笑いを浮かべた蔵人はさっさと朝食を食べ、机に向かった。

「まぁ、それでも――」

　自分の『仕事』の話をする、男たちの横顔を覚えていた。
　今日は昨日の続きで、つまらない仕事を仕上げてしまわなければならない。だがそれはもう少しで終わる。
　カーテンを開けると、眩しい昼の光が差し込んできた。今日もいい天気になりそうだ。根拠はないが、何か書けそうな予感がある。蔵人は軽く首をコキコキと鳴らした。

「さぁて、今日もお仕事がんばりますか！」

＜ＥＮＤ＞

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あとがき

担当マスター：まるよし
ファンレターはマスターページから！

　皆様こんばんは、まるよしです。
　この度はリアクションをお待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。

　今回で３本目のシナリオに当たりますが、いかがでしたでしょうか。
　解決すべき事件や騒動がないフリーなシナリオというのはほぼ初めてで、拙い部分もあると思いますが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

　次は『ラーメン』『うどん』の続きのガイドを出したいと考えておりますので、また少しだけ時間を置いて皆様とお会いできればと思います。

　それでは、またご縁がありましたなら。

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