ねこねこ歩く、ねこ歩く。
「よぉ、どうした?」
私立探偵、天利 二十(あまり にとお)は窓の外の猫に声を掛けた。
旧市街の雑居ビルの二階、自室兼事務所の窓の外には煌々と光る月に照らされて一匹の猫が歩いている。白い、小柄な猫だ。
夜の散歩中だろうか、窓の外にいたその猫は天利の呼びかけに返事もせずに、ぷいとその場を立ち去った。
「……愛想のねぇネコだぜ」
天利は夜食のカップラーメンのスープを飲み干して悪態をついた。続けてスーパーで特売だった発泡酒のプルタブを引く。カシュッという乾いた音と、薄いグラスに注がれる泡の音が気持ちいい。
「綺麗な夜空じゃねぇか」
開け放った窓からは秋の夜気が入り込んでくる。まるで夜の主役のような顔をした月と、数え切れない瞬きをたたえた星空。時折かかる薄い雲の流れが早い。今夜は冷え込みそうだ。
「アンタも飲むかい」
グラスを窓から高く掲げて、天利は夜空に呟く。視界の端にはさっきの白猫――首輪をしていないわりに体毛は綺麗だ。いつの間に移動したのだろう、地面の上からひとこえ鳴いた。
「にゃあ」
もちろん猫が天利の杯を受けに来るはずもない。その猫はさっさと背中を向けて、旧市街の裏路地の方へと姿を消した。
それを見届けた天利はくっと喉の奥で笑い声を立てると、ヨレヨレにシワのよった黒いスーツの懐に手を入れた。取り出した紺色の箱から煙草を一本取り出して口に咥えると、銀色のオイルライターの炎で金色の細工が軽く光る。
ため息と共に吐き出した紫煙は、まるで妙に大きくて明るい月を隠す薄い雲のように夜空に漂った。オトコの呟きは、たったのひと言。
「フラれたか、ザマぁねぇな」
ねこねこ歩く、ねこ歩く。
秋の夜長を、ねこ歩く。
みなさんこんにちは、まるよしと申します。
3本目のシナリオにあたります今回は、前回『うどんの白さにゃ敵わねぇのさ』と前々回『所詮この世はラーメンなのさ』の流れを一度切りまして、比較的フリーな日常シナリオのガイドを出すことになりました。
年末年始にかかりましてガイド作成の時間が取れず、麺類シナリオの続きのガイドをしっかり作成できないというのが主な理由です。
ちょっと一回一休みということで、もしよろしければお付き合い下さい。
ですので、今回は前回と前々回に出てきた『光る猫、金色の光、銀色の光』関連の事件やイベントは発生しませんので、ご注意下さい。
◆猫が夜の散歩に出たようです。
ガイドに登場した猫はふらふらとアテもなく、旧市街から寝子島の散歩へ出掛けました。
そのうち皆さんのところへも立ち寄ると思います。その時、皆さんは何をしているでしょうか?
時間帯としては夜から明け方までの間を考えていますが、描写して欲しい時間帯や情景などありましたらアクションにて明記して下さい。
◆基本的に内容はフリーです。
特別な事件やイベントを用意しておりませんので、今回は特に皆さんのアクションの組み合わせがリアクションの骨子を構成することになります。もちろんそれにGMである私がアレンジを加えるワケですが、材料である皆さんのアクションがよりダイレクトにリアクションの方向性を決めることになると思います。
実は私、こういうフリーなシナリオは手がけたことがあまりなく、どのようなことになるか楽しさ半分怖さ半分と言ったところです。
どうかお手柔らかにお願いいたします。
雰囲気は日常を切り取ったものでもよし、ドタバタコメディでもよし、少ししんみりしたりすることもあるでしょうから、アクションに明記してくだされば、可能な限り対応します。
また、他PCの方がアクティブなアクションをかけた場合、そのアクションに巻き込まれる可能性はありますのでご了承下さい。基本的には何が起こるか分からないのです。
◆猫について。
夜中の散歩をしている猫は、野良のわりに綺麗な白さの一匹の小柄な成猫です。月灯りの夜空と相まって、一種幽玄とした雰囲気に包まれているように見えるかも知れません。愛想のいい猫ではなく、接触を求めようとしても寄り付きません。
もし手懐けようとするならば何らかの工夫が必要になるでしょうし、成功するとは限りません。下手に手を出すと引っかかれるかも知れませんので、ご注意を。
◆私立探偵 天利 二十について。
旧市街に自室兼事務所を構える売れない私立探偵です。まともに依頼料を取らない男で、近所の子どもやお年寄り、まともな事務所で扱えないような依頼を受けて細々と生活しています。頭はボサボサ、スーツはヨレヨレの40がらみの冴えない中年ですが、サングラスやボールペン、腕時計や靴など、細部のみきっちりと手入れした品を身につけている変人です。ボロい国産軽自動車を辛うじて所持しています。
『学生さん』『坊主、嬢ちゃん』『店主さん』など相手を名前ではなく、肩書きで呼ぶクセがあります。
今回は天利に仕事を依頼することはできませんが、アクションをかける場合はご自由に。
◆アクションについての目安。
アクションをかける際、PCの台詞や心情を交えて下さると、キャラクターの雰囲気を掴みやすいです。
そのPCが何をしたいのか、そのために何をするのか、という目的と手段をはっきりさせるとGMとしても行動を取らせやすく、その目的を叶えやすくなります(あくまでも目安、ですが)。
では今回も、皆様の楽しいアクションをお待ちしています。よろしくお願いいたします。