【総力戦・４】

　奇策を認められ、先生ズに組み付いた響はというと？
「でね？　ゾンビの群れから仲間を助けるために、特効薬を持っている鬼畜男子の言いなりになる眼鏡のお兄さんの顔がね、徐々に快楽にハマってとろけていく過程がすっごく萌えるの！」
　響は自作の漫画『闇の雫』の内容を推しに推していた。
「ネコミケにも出したよ！　今度、まゆちゃん先生に貸してあげますから！」
「バカタコー！　学校に漫画を持ってくるなー！　校則違反だぞ！」
　吉田先生、こういう時でも生活指導をするあたり職業病といえよう。
「……今の高校生は、そういうのが流行ってるのでしょうか？」
　どんな状況でも冷静なのが渡辺先生という人物である。
「ちょっとまって！？　なんかよく分からないけど、面白そうだから今度貸してね！？」
　混乱して吉田先生の前で失言をするまゆ先生。
　両手は真紅のハチマキをガッチリ掴んでいる。
「通販はやっていないのかしら？　サークル名は？　既刊は何冊あるのかしら？」
　一方、フジコ先生は購入する気マンマンだ！
　それを咎める吉田先生。
「２人ともいい加減にしてください！　他の先生方に示しが……」
　大混乱の先生ズ。
　そこへ【ボビナム】の強襲！
「なんか来たね？　今がチャンスだよ」
　新井がシダに提言すれば、シダがここぞとばかりにリズムを取る。
「みんな　もういちど　いくぞ　モッ　ハイ　バーン！」
　激突！
「おっと、ボクだって盾になれるさ」
　衝撃を新井が体を使っていっぺんに受け止めた。
「まりもちゃん、引こう。佳奈ちゃん、タルトちゃんごと引きずり下ろすんだ」
「分かったよ！　えーい！」
　気合とともに繰り出される伊藤の右手。
　それを響は打ち払って凌いだ。
「そろそろ時間切れかな？　それじゃ、まゆちゃん先生、フジコちゃん先生、また後で！」
「このハチマキは渡さないよ！」
　響が逃走しようとすると、まゆ先生はハチマキを押さえ付けて必死の抵抗。
　だが、響は小声でまゆ先生に告げる。
「そういえば、なーんで僕の会話がBLの内容だって分かったのかなー？　もしかして……？」
「えっ、違うよ！？　ほらっ、大人の女性として、知識の１つとして……」
「隙アリ！」
　響はヒョイ、と動揺したまゆ先生から真紅のハチマキを取り上げると、再び全身のバネを使って跳躍！
「おー　くろねこ　とんだ　とんだ　ニンジャだな」
　シダが響の跳躍に感心してしまう。
「ねぇ、シダさん！　後ろから来てるー！」
　緑野は警戒するも、シダの反応が幾許か遅れてしまい、【豚まん】に背後を取られてしまう。
「いけ、小麗！　肉まんから餃子のフェイント、そしてフィニッシュは団子だ！」
「分かったのだ！」
　楢木の点心暗号を聞いた李はすぐさま反応。
　左から右へのフェイントを織り交ぜ、伊藤が前屈みになって防御したところを立ち上がって上から手を伸ばす！
「……やったのだー！」
　見事、李はハチマキを奪取することに成功した！
「あーあ、負けちゃったよー」
　惺靇は残念そうに苦笑い。
「負けたちゃったねー」

　緑野も茶目っ気たっぷりにメンバーを慰めた。
「うん、結果は残念だったけど、ここまで頑張れたんだ。みんな、お疲れ」
　新井は伊藤を地面に下ろすと、皆を励ますようにウィンクをしたのだった。



＜黒猫組：【豚まん】ハチマキ１本獲得！ → 陣地へ生還、100点獲得！＞
　
　＜脱落：白猫組【ボビナム】＞




　ところで、跳躍した響はどうなったか？
「真央ちゃんの今回唯一の活躍の場なのだ輝くのだー！」
　なんと騎馬から分離してバレーボールでいうトス態勢を取っていた。
　これも理事長は大きく腕を丸を掲げていた。
「さぁ、皆さん！　響さんが見事、自分の騎馬に戻れたら大きな拍手を！」
　先生ズと揉み合っている最中に、桜栄理事長が煽るもんだから、今、後木への注目度は半端なかった。
「さぁタルトちゃんバッチコーイなのだー！」
　チーム【練】の血の滲むような秘密特訓で編み出された立体戦術、今ここに実現する……！
　かと、思ったその時である。
「あっ！　何やあれはー！」
　突然、【インフェルノガッツ】の難波が空に向かって叫びだした。

「鳥か？　UFOか？　飛行機か？　ちゃう！？　あれは未確認フライングサンマさんや！」
「あー本当だー！」
　呉井も口裏を合わせて虚空へ指を差した。
　観客は「んなわけねーだろ」と誰もが無視を決め込んだ。
　しかし、普段から不思議なこと大好きで神魂事件に首をよく突っ込む後木にとって、これはまさにスクープに値する内容である！
「ファッ！？　どこなのだ！？　未確認フライングサンマさんどこなのだ激写するのだ！」
　辺りをキョロキョロと見渡す後木。
　その瞬間、集中力が途切れる……。
「真央ちゃん！？」
「うぼぁ！？」
　響、後木の腹部に不時着！
「うごご……、絶対にタルトちゃんを落とさないのだ真央ちゃんを踏んで越えてゆけなのだ～！」
「あれ？　真央ちゃんって踏まれて喜ぶ人だっけ？　ま、いっか！」
　気合一発、後木が響を抱えて踏み止まった。
　そして響は後木の肩に足をかけて２段目の跳躍の準備に入る。
　チーム【練】の騎馬まで、およそ２ｍ強。
「この赤いハチマキは絶対に僕が持ち帰るんだ！」
　強い決意を叫び、再び響がスカイ・ハイ！
　……だが現実は甘くなかった。

「あっ、お前のオヤツ食われてるぞ！！」
　七葵はあさっての方角を指差して叫んだ。
（俺ならぜってーこの内容で釣られるもんな！　食い物の恨みはこえーぜ！？　やっぱ俺って頭イイ！）
　しかし、残念なことに狙いがピンポイント過ぎて、一般的なターゲットを煽る効力はなかった。

「うわぁ～ん！？　真央ちゃんのおやつ食べちゃダメなのだ～！！」
　七葵の言葉は、同類には効果絶大だった。
　腹ペコどもの奇跡のシンクロが起きた結果、後木は響を支える集中力が完全に途切れてしまった。
「う、うわわわわっ？」
　バランスを崩した響は緊急手段として、近くにいた【二十馬】へ飛び付いた。
「チョマ！？　タルトちゃんアグレッシブー！？　てか危ないヤメロー！」
　武道が注意すると、えへへーと愛想笑いをする響。
「えっと、緊急避難？　すぐ戻るね！」
　再び跳躍しようとしたその時。
　理事長のアナウンスが会場全体に轟く。
「響さん残念ね！　飛び移り失敗よ！　あ、 【二十馬】はそのまま響さんを陣地へ運べば得点獲得よ。落馬はしてないから特別に真紅のハチマキも有効よ！」
「よし、このまま陣地へ向かってダッシュだぜー！」
　柊沢が叫ぶと、【二十馬】は一目散に陣地へ直行。
「騎手ごとハチマキを拉致して得点化とは……やはり寝子高は自由すぎる……！」
　楪は呆れてそれ以上、言葉を継ぐことが出来なかった。
「えーっ！？　みんなー、助けてー！！」
「なん、だと……？　騎手がさらわれた……！」
　八神の目が点になる。
　そこへ再び理事長のアナウンスが。
「言っておくけど、『騎手をさらったら失格』というルールはないのよ？」
　理事長の言い分に、苦虫を噛み潰したような渋い顔をするチーム【練】の面々。
　策士、策に溺れる！
　なお、チーム【練】には飛び移り失敗のペナルティが課せられた。
『チーム【練】全員のハチマキが【二十馬】の手に渡る』という内容だった。
「これくらいしないと、参加していた他の騎馬の生徒たちと釣り合わないもの！」
　理事長の鶴の一声で決定した。
　おかげで一気に獲得得点が跳ね上がった【二十馬】である。

　こうして、黒猫組の騎馬がすべてグラウンド上からいなくなったため、白猫組もすべて撤退することに。
　果たして、最後のハプニングで得点がどう変動したのか？
　集計タイムに突入だ！



＜白猫組：【インフェルノガッツ】ハチマキ５本 → 500点獲得！＞
＜白猫組：【二十馬】ハチマキ５本＆真紅のハチマキ獲得 → 800点獲得＞
　
　＜脱落：黒猫組 チーム【練】＞