【総力戦・３】

　もう一方の局面。
　チーム【練】と【豚まん】、そして菜々緒の騎馬が待ち構える先生ズへ突撃する。
　だが、この瞬間を白猫組の生き残った騎馬たちは待ち望んでいた！
「それっ！　突出した騎馬を囲んで個別撃破だ！」
　楪 櫻が騎手を務める【二十馬】を起点に、チーム【練】への包囲網が狭まる。
　互いの騎馬の数はちょうど３騎。
　確実に戦力を集中させて撃墜させていき、最後に先生ズと戦う算段だ。
「武道ちゃん、正也ちゃん、CL（左へカニ移動）のあと、あっちへ突撃するといいかも？」
　後馬の宇佐見 望月が横馬担当の志波 武道と桐野 正也へ伝達。
「オッケー！　それじゃCL後にタルトちゃんの騎馬へＡ（スキあらば攻撃）ダナー！　タイミングは任せるぜー、北斗くん！」
「任せろ、ブドー！」
　チーム【練】の側面に回り込んだ【二十馬】は機会を伺う。
　その間に【インフェルノガッツ】が時間差攻撃を敢行。
　騎手の雨寺のデスメタルめいたスクリームが戦場に轟く！
「うがああああああああああっ！」
　完全に脳筋騎馬と化した【インフェルノガッツ】の勢いは増すばかりだ。
　だが、チーム【練】はクールに事を構える。
「先生ズの前にまずは前哨戦なのだ三毛強襲後退３歩なのだっ」
「任せときな！」
　後木の指示を聞いた桜崎は、“真っ直ぐ”３歩突っ込む！
「おら、どきな！　邪魔する奴は轢いちまうよ！？」
　急に前へ突き出た桜崎の肩が相手騎馬の難波に接触してカウンター気味にダメージを食らう。
　真正面からぶつかる作戦で恐れられている【インフェルノガッツ】も、チーム【練】の『猫符丁』に調子を狂わされていた。
「後退すると言いながら突っ込んできたぜ！？」
　符丁を理解できない七葵 冬馬は大混乱！
　思わず足が止まり騎馬にブレーキがかかる。
　ちなみに、猫符丁の解読は、「白＝右」「黒＝左」「ブチ＝後退」「三毛＝前進」「虎＝標的へ全速」となっている。
　すべて猫の柄に由来しているあたり、このチームの猫好き度が伺える。
「相手の言葉に惑わされちゃ駄目だよぅ？　落ち着いてこー！」
　呉井は足を止めて声掛けを行うことで、チーム全体の混乱を収拾させるように努める。
　だがその僅かな隙が狙われるのだ。
「呉井！　このときを待っていたんだぜっ！」
　楢木 春彦属する【豚まん】が横から強襲を仕掛けてきた……！
「李さん、今だ！」
　鴻上が体当たりをした瞬間が合図。
　李は既に練気を済ませており、八極拳の動きを取り入れた張り手を繰り出した！
「――ハァッ！」
　短い気合の声を上げる李。
　横から突き飛ばされ、【インフェルノガッツ】の騎手、雨寺は大きく態勢を崩す。
「いやーっ！？　落ちちゃう落ちちゃうよー！？」
　真横に傾いた雨寺は、奪ったハチマキを落ちないように腕に通してガードする。
「アカン！　みんな、雨寺を支えるんや！　雨寺はなんとしても死守するで！」
　難波が叫ぶ。
　先頭を務める彼の両手は、機種の足を乗せるあぶみの役割があるため、常に塞がっている。
「俺の手は放せへん！　せやけど俺には心強い仲間がおる！　みんな、頼んだで！」
「楢木！　よくもやってくれたな！　俺だって、相手がお前だからこそ、ここは譲れねーんだよ！」
　六月一日宮が奥歯を食いしばると、雨寺の体を片手で支えて落下を食い止めた。
「ぐあああああっ！　早く起こし上げてくれ！」
「分かってるけど、くそーっ！　こっち来るなー！」
　七葵はここぞとばかりに猛攻に出るチーム【練】のヒット＆アウェイを体を呈して守っていた。
「好機です、このまま粉砕しましょう！」
　閻魔モードの森の目が血走る！
「させるか！」
　楪が叫ぶのと同時に、チーム【練】の真横の隙間に【二十馬】の先頭、柊沢が体ごと特攻！
　そのまま体を食い込ませる！
「いいぞ！　相手の騎馬に楔を打ち込んだ！」
「そのまま踏ん張れ、北斗！」
　桐野も足腰に力をみなぎらせて、チーム【練】の機動力を奪うために踏ん張る。
「チィッ！　これじゃ動けないじゃないのさ！」
　先生ズへ突撃を阻止されて苛立つ桜崎。
「タルトちゃんこうなったら白兵戦なのだ！」
　後木の声援を受け、騎手の響は腹を据えて正面を向いた。
　距離は僅か50cmも満たない超近接状態だ。
　次の瞬間、相対する楪の顔が剣士の顔へ豹変していく……。
（立ち会いの時こそ、背筋を正して、前を見る……！）
　剣術の手習いのある楪、剣を構えるように背筋を伸ばすと、自然と体中から闘気が立ち上ってくる。
「つ、強そう……。でも僕だって負けないよ！」
　至近距離から猫パンチを連想させる素早い手さばきで響は連続攻撃！
「櫻ちゃん、俺と肩車だ！　そうすれば絶対落とされねぇから！」
　宇佐見の提案はベストであったが、油断したらハチマキを取られない状況の楪はやむなく宇佐見の頭の上に腰を下ろした。
「すまん、宇佐見！　息苦しいだろうが少し耐えてくれ！　……よし、これで距離も取れた上に安定感が増す！」
　額で楪の尻を受け止めた宇佐見はそのまま体中を硬直させた。
（おちりの感覚？　イヤ、ソレヨリ　タイヘンナコトガ　オキテ　カンカク　ナンテ　アジワッテ　ラレマセーン！）
「顔面騎、いや、何でもない」
「ウン、ソーダネ！　勝てばヨカローモン☆」
　桐野と武道は前だけを見ることに努めた。
　柊沢に至っては、後ろで何が起きたのか把握できなかった。
「黒髪の上に虹色のカチューシャに目がいって、狙いが逸れるが……そこっ！」
　ハチマキを狙いに行きながら態勢を崩しにかかる楪に対して、
「おっと危ない！　それより先輩！　ドＳな眼鏡先輩が子猫系後輩に無理やり迫るシチュエーションって萌えませんか～？　ただし男限定で！」
　手数とともにBL精神攻撃を行っていた。
「お前は何を言っているんだ！？」
　しかし楪には効かなかった！
「そっかぁ～、先輩はノンケなのかな？　だったら先輩にも腐った道の素晴らしさをこの戦いの中で教えてあげるよ！」
　それでも響はめげずにカップリング（男同士限定）の良さを攻撃に乗せながら説いていく。
「例えば気弱なリーマンが数人の屈強なチンピラたちに……」
「響、下で聞かされる身にもなってくれ……！」
　響の精神攻撃は無差別攻撃だった。
　延々と聞かされるBL妄想を八神は耳を塞ぐことができず、彼のライフポイントが今にも底尽きようとしていた。
　味方なのに！