出現！　寝子島の黒い青魚（矛盾）｜リアクション

出現！　寝子島の黒い青魚（矛盾）

【月と夜とロボットと】

「おいおい、随分と怪力になっちまったなぁ……。だが、てめぇだけが変身できると思うんじゃねぇぞっ、このサンマ野郎ッ！」
　呆れたように呟きながら、最初にサンマさんに迫っていったのは雨垂ミゾレだった。
　彼は手持ちのカメラで自らを撮影し、《超人化》のろっこんを発動すると、筋骨隆々に強化された肉体でサンマさんに重いボディブロウを叩き込む。
　サンマさんは銀色の腹部に拳をめりこませて、一瞬よろめく。
「こっちからも行くぜ！　口で言ってわからないなら、この拳で想いを伝えさせてもらうッ！」
　ザ・ストレイトこと風雲児轟も呼吸をあわせて、サンマさんの胴体に拳を乱打する。
　日々のトレーニングで鍛え抜かれた拳が一発ヒットするごとに、そこに込められた想いもまたサンマさんのボディに蓄積していく。
「さて、あと直接対峙できるのは拙者くらいかのう」
　さらにそこに夏神零も援護攻撃に加わる。
（今宵が月夜であったこと、不幸中の幸いでござったな）
　直情径行型の轟とは対照的に、零は静かな口調で手持ちの札をくわえると『ろっこん』《朱雀之舞・翼刃》を発動させて、鋭利な刃と化した手刀で幾重にもサンマさんの胴体を切り刻んでいく。
　しかし。
「……っ、痛ってぇじゃねぇかよおおおおっ！」
「……うおっ！？」
「ぐっ……」
「む……」
　次の瞬間、サンマさんはラリアットで三人を大きく吹き飛ばした。
　並の人間なら一撃で致命傷になりかねない三人のもれいびの攻撃を立て続けにうけてなお、彼は平然とその場に立っている。
「……っていうか、俺を呼び捨てにするんじゃねぇええっ！」

（……そこにキレるのかよ（でござるか）！？）

　やや場違いな憤慨の仕方に、三人が心の中でそう突っ込んだ。
　しかし、それは同時にまだサンマさんがサンマさんであり続けているという小さな証でもあった。
「うおおおおっ！　スーパーサンマさんゴージャスハリケェェェンッ！」
　と、そのとき、サンマさんが明らかに今思いついたふうな謎の技名を叫びながら、ジャイアントスイングの要領でなんと自動販売機を放り投げてきた。
「……って、え、ええっ！？」
　自動販売機は誰も予想していなかった方向――遠巻きに戦いを見守っていた久良木優菜のもとへ一直線に飛んでいく。
　優菜は思わずぎゅっと目を閉じた。
　重たい鋼鉄の直方体が彼女の身体を容赦なく押し潰す――その直前。

「……間に合えよっ、《フェノメノン》！」

　物陰から颯爽と跳び出した、絹織真由良が光の柱とともに黒いロボットに変身し、それを受け止めた。
　いきなりのロボット出現に、にわかにその場の空気がざわつく。
「ちっ……！　次から次へとしゃしゃり出てきやがってぇっ！」
「……物騒な物音がしてるから覗いてみれば、いったい何がどうなってるんだ……？」
　真由良はフラメンコ教室の帰りに騒ぎの気配を聞きつけて、この近くまでやってきていた。
　そして、こっそり覗いて様子を窺っていたところでかような事態に陥り、居ても立ってもいられなくなってその場から飛び出したのであった。
「……あ、あの、ありがとうございます」
　と、背中から優菜の礼の言葉が聞こえて、真由良は正面から目を逸らさずに小さく頷くだけでそれに応じる。
「……サンマさんだが、マグロさんだか知らないが。暴れるっていうなら手加減はしないぞ……！」
　真由良は状況がよく飲み込めないままに、ひとまずもれいび達に加勢することを決意した。
　現実のシーサイドタウンという状況のせいか、変身後のボディはいつもよりひとまわり小さく感じられたような気もしたが、この状況下ではかえっていい塩梅の大きさだった。