北欧から来た少女　～うさぎさんオーヴァードライブ～｜リアクション

北欧から来た少女　～うさぎさんオーヴァードライブ～

【一方その頃、裏山では……？　中継その３】

　小刀祢切奈は、今起こっている現象に恐怖していた。
　まず、恐怖する前のことだが、諸処の事情があって現在、切奈は裏山でサバイバル生活をしていたのだが、今日は何やら騒がしい、そして、自分の仕掛けた罠にどうやら何か引っかかったらしい。
　カラコロと手製の鳴子のようなものが、音を鳴らして罠に引っかかった存在があることを知らせる……。
「……ん？　仕掛けたトラップに何か引っかかりましたか？」
　そう、思った瞬間であった。
　ブチッ！
「へっ？」
　たらりと、糸が外れ、カランコロンと仕掛けは落ちる。
　そして、罠にかかったという知らせが続々とくるが、相手はまるで罠を気にせずに進んでいるように思える。
「おや？　誰か私のテリトリーに入ってきたのですか～？」
　そう言いつつも、油断なく自分のサバイバルナイフを片手に外に出る切奈、その瞬間であった。
「あぁぁぁぁぁぁぁん、待ってぇぇぇぇぇぇん！　全力で可愛がってあげるわ！」
「なんか、なんかヤバイのがきたですよーーーーーーーーーーーーーー！」
　ドドドドドドドドドドドドッ！　
　地響きのような何かを感じさせながら、尾鎌蛇那伊がシーリを追いかけていた。
　ちなみに、シーリの手元には捕獲したかに見えるうさぎが見えるが、食べるとか食べない以前に、シーリは全力でダッシュしていた。
「な、なんですか～？」
　切奈は、はっと罠の理由に思い当たった。
　シーリが罠をよけながら進むのに対し、蛇那伊は完全に罠そのものを無視している。
　例えば、鳴子のような縄を引いて危険を知らせるものがあったとしたら、それは無理やり引きちぎられる。
　落とし穴があったら、落とし穴ごと踏み抜いて、そのままダッシュをする。
　石や、鉛玉のようなものが飛んでくる罠は空中でそのままたたき落とされる。
　転ばせる罠？　そのまま蹴り上げられてぶち破られる。
　竹が肉体に突き刺さる罠？　それは当たりはするが竹が砕けている。
「……どうやら、山に引き篭りすぎたせいで幻影が見えますよ～？」
　残念、これが現実である。
「うふふふふ、お・は・な・し・し・ま・しょ？」
「ニホンこわいニホンこわい、アプア！　アイティ！」
　なんというか、シーリ涙目である。
　母国語でお母さん助けてと叫んでいる辺り、わりとマジであるが、蛇那伊はそれに気づかないし、本人も大真面目である。
「シーリちゃん、日本では学校で食用兎は飼わないのよ。飼ってるのは観賞用、見て可愛がる子だけよ。シーリちゃんは人に尋ねる時に食用、食べる用とちゃんと聞いた？」
「いーーーやーーーでーーーーすーー！」
　シーリ、逃げる。蛇那伊、追う。逃げる。追う。
　というか、会話がかみ合ってない。
「普通に兎は？　と聞けば、日本の学校に居る人達は観賞用を連想するわね。何事も自分の中の常識だけで判断してはいけないわよ？　特に自分が今まで居た所と別の環境なら、なおさら常識にあたる部分が違うわ、だから、お・は・な・し・し・ま・しょ？」
　ぎゅいーんと、蛇那伊の両目が一瞬光ったように見えたのは気のせいである、きっと。
　なんというか、お互い、落ち着いた状況で教え合えば良い友人になれるのだろう、そう思いつつ、切奈ははっと気がつくと、慌てて止めようとしたが……。
「……もう、誰か説明して欲しいですー！」
　結局、後続でついた梢や佳奈といった人たちの話を聞いて、協力することになったとかなんとか。
　ちなみに、この日の追いかけ合いをシーリは片時も忘れない……かもしれない。