辻投げじゃ！　辻投げ！｜リアクション

辻投げじゃ！　辻投げ！

「じゃあ帰るね」
　と手を振った姫乃と別れ、真央は取材を続行します。
　なおさっきのレスラーは、縄を解いてやると「マスクが……マスクがあー」と泣きべそをかいて逃げていきました。
　神社を歩む真央は、そうして遭遇したのです。
　彼に。
「轟ちゃんも来てたのだ？　やっぱり正義が燃えたのだ」
　そう、風雲児轟に！
「なんでわかっ……い、いや、俺はその風雲児なにがしという男ではない！」
「轟ちゃんじゃないのだ？　そんな気がしたのだけど……」
「俺はザ・ストレイト、正義の戦士！　辻投げという危険行為をやめさせるべくやってきたヒーローだ！」

　そう、彼は今、轟であって轟ではありません。ろっこん『戦衣着装』を発動し、変身したスーパーヒーローなのです。弱きを助け強きをくじく、その彼を人は『ザ・ストレイト』と呼びます！
　熱いポーズをとるザ・ストレイトに、やんやと真央は喝采して、
「じゃあストレイトちゃん、辻投げに言いたいことを教えてなのだ」
「いや……『ちゃん』づけは……あと、『ザ』を忘れないように」
　とかやっているところに風雲急！
「シャー！」
　怪しい、怪しすぎる姿が出現しました。
　今夜は覆面が流行っているのでしょうか。またもマスクマンです。
　道着を改造したとおぼしきスーツを着て、目だけ見えるような黒覆面、覆面は基本的に無地ですが、額に金文字で『辻☆投』と書いているのがなんともいえないテイストをかもしだしています。
「シャー！」
　気合いの鼻息を吹きだして、覆面怪人は腕組みし仁王立ちになりました。
「むっ、あれはおそらく辻投げ犯！」
「だとすれば取材するのだー！」
　という真央の肩を押しとどめて、ザ・ストレイトは言いました。
「危険だ。それに、辻投げ犯でなかったとすれば失礼にあたる」
　見りゃわかるのだ～、と真央は言いますが首を振り、ザ・ストレイトは怪人に呼びかけます。
「念のため確認しよう。辻投げ犯か？」
「シャー！　その通り！」
「あ、シャー怪人って『シャー』以外もしゃべるのだ？」
　真央が素直な感想を洩らします。ついでに『シャー怪人』と命名までしちゃってますが、それはともかく、
「なぜこのようなことをする！」
「シャー！　格闘家は鍛錬するのが使命、かつて我らのリーダーは野試合に敗れた。その反省から、こうして毎夜、鍛錬として野試合を行っている。元々は我らの身内だけの催し、それに参加しようという酔狂が増えただけのこと！」
「だが一般人に挑むのはよくない。こんな事を繰り返してたらいつか取り返しのつかないことになりかねん！」
「シャー！　元より修羅の道なり！」
「ええい、やめる気がないというのなら、仕方がないから戦って止めるまでだ！」
　決戦のゴングが鳴りました。実際に鳴ったわけではないのですが、ザ・ストレイトと辻投げ覆面、その両者の脳内では確かに鳴ったはずです！
　――辻投げと呼ばれてるだけに投げ技が得意のはず……接近戦主体の俺とは相性が悪いが。
　ですがザ・ストレイトは負けるつもりはありません。攻略法は、あります！
　始まるや否、ザ・ストレイトは突進したのです。まさしくストレイト、積極攻勢に出たのです。
「シャー！　拳闘家か！」
　シャー怪人が言った通り、ザ・ストレイトはボクシング仕込みのフットワークを活かし、かく乱する動きに出ました。投げ技の大前提、『つかみ』を出させないためです。
「シャー！　しゃらくさい！」
「そこは『シャーらくさい』っていってほしかったのだ～」
　真央のツッコミをものともせず、怪人は跳びかかりました。その速いこと！　ですが早さならザ・ストレイトも負けてはいません。
　左ジャブ。
「近代格闘技最速の一撃、受け止められるか！」
　入りました。
　怪人の顔面に拳がめりこみました。
　ですが、
「シャー！　取った！」
　伸ばしたザ・ストレイトの腕を、辻投げシャー怪人はつかんでいたのです。腰を落として投げの構え……そこに、
「なら奥の手だ！」
　怪人が投げに移行する瞬間を狙い、ザ・ストレイトはその軸足をすくい上げて倒したのです。
「天地逆転！　リバーススマッシャー！」
　……以前とある先輩から教えてもらった合気道を見よう見まねで取りれたオリジナル技です。
　見事！　怪人は背中から地面に落ちました。
「くにへ　かえるんだな　おまえにも　かぞくがいるだろう……」
　心の中で髪の毛を逆立てつつ、ザ・ストレイトこと轟は言うのでした。

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