その日の夕暮れ、美術部の扉を開けると、おり悪くというか運命のいたずらというか、そこには
鷹取 洋二の姿しかありませんでした。
「やあ」
洋二は窓縁に腰掛けていましたが、
北原 みゆきの姿を見かけると、ニヤっと片手を挙げました。
みゆきはこの先輩がなんとなく苦手かもしれません。
いや、悪い人ではないのですけれど、この人は一種の天才というか、なんだかちょっと現世を超越しちゃった雰囲気の先輩なのです。買い出しの途中で急に、ルートを外れて自然観察をはじめてしまったり、「インスピレーションが湧いたから」などと言って、まだ薄暗い早朝から屋上でヴァイオリンを奏でていたり、とにかくこの人の行動は常識という枠組みではとらえきれないものがあります。本日も彼はあいかわらず、『ワカメ頭』と自称するベートーヴェンみたいなヘアスタイルで、なにやらフワフワ眠そうな目をしていました。
そのワカメヘッド先輩は、風に舞うタンポポの綿毛みたいな笑みを浮かべ、「いいところに来たね」とみゆきを差し招きました。
――嫌な予感がするなぁ、でも、逃げられないですぅ……。
「辻投げというのを聞いたことがあるかい?」
ほら変な話がキタ!
「辻投げ……ですか-。なにかの必殺技の名前……?」
「ちがうちがう。ほら時代劇で『辻斬り』ってあるだろう? あの『投げ』版だよ。夜に落神神社の境内を歩いていると、柔道着姿の男が挑戦してくるという……」
「それ通り魔じゃないですかー?」
「そうかも……いや、こちらが逃げたら追ってこないし、武道の心得がないと言えば引き下がるというから、ちょっと違うかもしれないねえ」
付近には柔道や空手の道場がいくつかあり、その門下生に腕試しを挑む目的なのかもしれません。
目撃情報や羽沢を洋二が集めたところによれば、辻投げの怪人像は安定していないようです。
「イノシシみたいに固太りした男だという話もあれば、ひきしまった体型の青年という話もあるね。蛇みたいに痩せた年齢不詳の人だとか、なぜか若い女性という話まであったよ。服装だって柔道着だったりプロレスラーみたいなタイツだったりして一定しないみたいだ。ぴっちりしたラバースーツだった……というホラーテイストな話もあるよ。変装が得意すぎる人物なのかなあ?」
いやそれ、犯人が複数いるだけって話じゃ……? と、みゆきは思いましたが口には出しませんでした。
もっと気になることが他にあったからです。
「もしかして……見に行く気ですか?」
「うん! 今夜あたり考えてるんだ! 北原くんも一緒に見物に行こうよ!」
やっぱりな!
さあ、急いで断る言い訳を考えましょう!
それとも……?
ファイト一発!(自分で書いておいて即後悔) マスターの桂木京介です。
■概要
さて今回のシナリオは、バトルでもありコメディでもあります。
夜の落神神社を舞台に、出会った相手を投げ飛ばすという謎の格闘家(辻斬りならぬ『辻投げ』)との戦いを描くお話となるでしょう。
お察しの通り辻投げは単独犯ではなく、腕に覚えがあれど日の当たらない場所にいる集団が、力試しに仕掛けていっているもののようです。暇な人た……いえいえ、武者修行に熱心な人たち、ということでしょう!
戦うことだけがシナリオの参加方法ではありません。
NPC洋二のように『見物に行く』というのもありですし、格闘談義をしかけに行くのも一興でしょう。
本当になんの関連もなく、単に散歩していたら巻き込まれた……というあなたも大歓迎です。さあトラブルに遭いましょう!(なにその誘い文句)
特にどうしなければいけないということはありません。遭遇する『辻投げ犯』も「こういう相手で」という希望にできるだけ添いたいと思います。まあはっきり言って犯罪者といっていい人たちが相手ですが、逃げれば追ってきませんし降参すればそれで終了なので、こちらもとっちめる程度で一つ……お手柔らかに。
それでは、次はリアクションでお目にかかりましょう! 桂木京介でした。