月のお散歩｜リアクション

月のお散歩

「また神魂かよ！」
　気づいたら月にいた。
　御剣刀。よくよく事件に巻き込まれる男である。
　それだけの試練を、神が科しているのかもしれない。

「折角だし散策してみるか……」跳ね上がると、思ったより体が軽い。
　重力の軛から脱してみると、体の操演の仕方も随分変わる。
「不思議な気分だ……」大きく飛び上がると、青い地球が天球を覆うかのように広がっている。
　懐かしさ、慕わしさを感じながら、彼は鋭くジャンプを繰り返す。

　そうして、月面ホッピングをエンジョイしている女性が、ここにもいた。
「ほわぁ、ここって……月？」
　静寂に満ちた世界。灰色の砂丘のかなたに、無数の星が散りばめられている。
　雨寺凛は、興奮が湧き上がってくるのを感じた。
　飛び上がろうとすると、大きく全身が持ち上げられる。
　ふわふわする、この感覚。
「体が軽くて、ちょっと気持ちいいかも♪」
　神魂に限らず、どんな怪異もアグレッシブにハイテンションに受け入れてしまう彼女。
　ぽんぽんとステップを踏み、空を見上げる。
（思いっきりジャンプしたら、どれだけ飛べるかなぁ……）

＜月には摩擦が存在しないため、理論上加速度は無限にまで上昇します＞

「きゃ～～～～～～！！」
　宇宙空間は、音を伝えない。
　ゆえに、凛の絶叫は真空にふさがれる。

　一条の光弾となった凛を、抜群の動体視力で目にしたのは刀。
　とりあえず彼女を追ってみる。
　軌道にはじき出され、流れ星になるのを見過ごすわけにはいかない。

　そんな刀と並走するのは奈良橋博美。
　彼女も月に来ていたのだ。
　抜群の身体能力、それから生徒会で培われた判断で、彼女も凛を追う。

　凛が、夢中でつかんだものがあった。
　その物体は反撥性があった。凛の運動エネルギーを、撓ることで優しく押しとどめ、軽やかに弾きとばしてくれた。
　ぽす。衝撃を吸収してくれたのは、エメラルド色の草叢。

「……笹？」

このページにイラストを設定する