月のお散歩｜リアクション

月のお散歩

　酒浸朱蘭はパニックに陥っていた。
　彼女は他の人達と同じく、堅牢な宇宙服に身をまとっている。
　外界とは、二重三重に隔てられている。

「酔っ払えないじゃないか！」
　
　酒に溺れ、夢に焦がれ。
　酒屋の一人娘として生を享けた彼女。
　ちょっとお酒の匂いを嗅いだだけでクラクラしちゃう耐性のなさが悲しかったが、ろっこんに目覚めることで酔っ払うことができる、特殊な液体を精製できるようになった。
　むろんお酒ではない。
　未成年にも安心である。
　
　かくして酔眼酩酊、月に一献、雪に一献という宴会三昧の日々を過ごしていた彼女なのだが……。

　厚いヘルメットによって、液体を口にすることが出来ない。
　飲料水チューブはあるものの、ろっこんを施すのは不可能だ。
「このままだと……危ないぜ！」
　死活問題、デッドオアアライブである。
　さっきまで地球の美しさに見とれていたが、これではお月見ならぬお地球見としゃれ込むこともできない。

　いかにして、この宇宙服を脱ぐべきか……。
　月……。
「月になら、かぐや姫がいるな」
　朱蘭は考える。
「かぐや姫が宇宙服を着ているわけはない。そこでなら……」
　宇宙服を脱げる。さらに宴会も可能だ。
「よし、さっそく探すぜ！」
　勇んで飛び上がろうとした時、

『朱蘭も来てたの？』
　通話機を通して、耳慣れた声が響き渡った。

　花風冴来も、機嫌は上々と言えなかった。
「お月様に来ることができたのは嬉しいけど……」
　武骨な宇宙服を見て、愁眉をひそめる。

　冴来の宇宙服は、硬式大気圧型潜水服と呼ばれるものだ。
　万が一船外活動中に放り出されても、生存の保障される最新鋭の宇宙服だったが、いかんせん、冴来の美的センスにはまったくそぐわない。
「可愛くないし、邪魔だなあ……」宇宙開発の技術の粋を、ばっさり切ってすてる彼女。「何処かで脱げたらいいんだけど」
　ふわふわ飛翔する彼女が、朱蘭の姿を見たのは、そんな時だった。

「いいよ、一緒に探してあげる」嫣然と微笑む。「かぐや姫、私も会いたいって思っていたし。かぐや姫のいる場所なら、この宇宙服も脱げるかもしれないしね」
「よし、ちょうどいいぜ！」
　ガッツポーズをとる朱蘭を見ながら、冴来は別の事を考える。

（かぐや姫……不老不死の薬、なんて話もあったわね）

　かぐや姫の手がかりを得るため、二人の少女は飛翔する。

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