【対決！】

　オーストラリアはアボリジナルの血を引く、マウル・赤城・スティック。故郷では狩りに勤しんでいたという彼の、野生のカンというやつでしょうか？　
「美化委員としては、こんな破壊活動を見過ごすわけにはいかないな。ここは、協力するとしようぜ……まずは一番強そうな、あいつからだ！」
　最も強敵であろう王苦の強さを感じ取ると、仲間たちへ、そこに戦力を集中することを提案します。
「りょーかいや！　けど空手の技使うと、後で親父にしばかれてまうなぁ……」
　うなずいた浅沼 柳司もまた、実行委員。体育祭の開催を楽しみにすると同時に、強い責任も感じているのです。それをぶち壊しにしてやろうなどという輩には、それはもう腹も立つというもの……ひとつ、個人的に憂慮すべき問題があるにしろ。
　ともかく、マウルの作戦は寝子高生たちの間を巡り、彼らは連携を図りつつ動き出しましました。
　マタ工生たちの中で、真っ先に飛び出してきたのは、鈴木 零斗。
「いっくよ～、ていや～っ！！」
　身軽さが売りの彼は、小柄な体躯でぴょーんと跳躍。軽々と宙へ飛び上がり……先頭に立っていたティナ・フォルトゥスへ、奇襲のジャンプキック！
「……あいにくだけど」
　勢いや腕力任せのマタ工生たちと違って、ティナはと言いますと、マーシャル・アーツの達人！　でありまして。お祭りを邪魔する無粋な輩には、容赦なくその技を振るう心積もりです。
　なのであっさり、ひょいっ！
「うわわ～、避けられた～！？」
「止めさせてもらうわ。あたしも、体育祭に参加する一員だもの」
　難なくかわしたティナは、そのままぐんっと足を踏み込み間合いを詰めると、
「え、ちょ、私は頭脳労働担当であるからして、暴力行為は……へぶあっ！？」
　たまたま目の前にいた山田 透遁の顔面めがけて裏拳一発、弾き飛ばし。
「君がリーダー……ねッ！」
　田中 王苦。その足元めがけ、鋭いローキック！
　ばしん！　と音を立てて決まった蹴りは、
「ほうっ。イケメンじゃねェかコンチクショウ羨ましい、と思ったら……テメェ、女じゃねェかコラァ！　それも、なかなか上玉だぜェ！」
「……それはどうも」
　しかし、巨体を崩すには至らず。少人数で寝子高生たちを相手取るあたり、確かになかなかお強いようです。
　とはいえ。退くわけにはいきません！
「俺も行くぜー！」
「うおッ！？」
　横合いから、マウルが長身から生み出される膂力と共に投げたのは、彼のお得意のブーメラン。鋭い回転と共に王苦の肩口へ叩きつけられると、ティナは生まれた隙を突いて再び踏み込み、
「ふッ！」
　ロー、ミドル。右から、と見せかけ左のハイキック！　巧みにフェイントをかけながら、息つく間も無いほどの乱打を叩き込んでいきます。
　そこへ。
「隙アリなのだこれでも喰らうのだ～っ！」
　どぱん！
「ぶわー！？」
　王苦の目の前で炸裂した白煙は、ライン引き用の石灰をティッシュに包んだ、即席の目つぶし爆弾です。投げつけたのは、陸上部所属……グラウンドの守護者、後木 真央！
「みんなが楽しみにしてる体育祭を邪魔した罪は重いのだ許さないのだ、運動場で陸上部にケンカ売った愚かさを思い知るのだッ！」
　びしいっ。ああ真央ちゃん、それはダメ！　中指立てるのはダメ！　マタ工生じゃないんですから！
「ぬおお、目が……！　て、テメェら結構やるじゃねェか……！」
「そいつはどうも、けどまだまだ、こっからや！」
　すぱんっ、隙を突いて足を払った柳司。
「……そこッ！」
　同時にタイミングを合わせ、ティナのローキックが再び、膝へと炸裂したものですから。王苦はうおっと慌てた声を出し、ずてん！　ひっくり返ります。
　すかさず柳司は、王苦の足元へと組み付くと、
「お前、ちょい太りすぎやで。こいつは効くやろ？」
「いっいでででで！？　これ痛ってェぞコラァァァ！？」
　ぎりぎりぎりと、アキレス腱固め！　柳司は主に、関節技で王苦を攻め立てます。
　……空手じゃないから、大丈夫！　体育祭を守るため、お父様もきっと許してくれることでしょう、多分。



「なんだい、こいつら田中さん狙いかい、きったねーっ！」
「あなたたちに言えた義理かしらね？」
　マタ工勢の紅一点、佐藤 御舞鈴の力任せの拳を、栖来 衣夢は、するり。
　かざした手のひらは、鷹の翼のごとく。しなやかにくねらせる身は蛇のごとくに、衣夢は中国武術の劈掛掌の動きで、御舞鈴を翻弄します。
　手にはめたメリケンサックの破壊力が計上された御舞鈴パンチを、衣夢は上体のみで、するりするり。
「くそっ、ちょこまかしやがって……！」
「そんなオモチャに頼らなくても。私の打撃は鋭く、重いわよッ？」
「きゃあ！？」
　しなる両腕による攻撃は、さながら暴風を巻き込む風車のよう。小柄な衣夢ですけれど、その技量は本物！
「ぐ……ていうかアンタ、その格好っなんなのさ！？　それも体育祭で使う扮装ってやつかい、忌々しいねっ！」
「いいえ、これは趣味よ。でも、たかがコスプレと侮るなかれ……やるからには、常に本気よ！」
　そう。本日の彼女は、きわどい黒のミニチャイナドレスに、可愛らしいネコミミ姿！　コスプレにリアリティを付与するためなら、自ら武術を修めることも辞さない本格派なのでした。
　どかん、とぶつかり合う二人。衣夢の実力はさることながら、御舞鈴もあの王苦の仲間だけあって、それなりに腕っ節には自信アリ。
　と、そんな中。
「俺ぁ、武闘派ってわけじゃねぇけどなあ……」
「むっ……なんだいアンタは？」
　身構える御舞鈴の目の前へ、颯爽と現れる乱入者。七峯 亨！
「他所の連中にシマぁ荒らされて、黙ってる訳でもねぇ。ここは、一口噛ませてもらおうか！」
「女の子一人に……と言っても、相手もそれなりにやるようだしね。いいわ、同時にいきましょ」
　衣夢と亨はタイミングを計り、同時に足を踏み出します。
「ちっ、上等だよ！」
　御舞鈴もまた、退くそぶりは全く見せず。二人を迎撃しようと構える様は、なかなかの女傑っぷり。
「返り討ちにして、っ！？」
「遅ぇッ！」
　御舞鈴の先手を取り、亨は渾身のジャンプキック！　と、見せかけて。
　みょんみょんみょん！　自らを縮小化するろっこんを空中で発動させ、見る間に小さくなった彼は、そのまま御舞鈴の胸元から服の中へと、すぽん！
「なっ、なっ、何！？　何これ、やっ、ちょ、もぞもぞしないでー！？」
　服の中を移動するちっちゃい亨。もぞもぞもぞっと背中側へと移動したところで、
「ここだぜ、もらったァ！！」
　みょんみょんみょん……なんて、服の中でろっこんを解除したものですから。
　亨の身体が大きくなった拍子に、当然。御舞鈴の服は、ああ無情。
　びりりりり！！
「いっいやああああああ！？」
　下着姿、けっこーこれがナイスバディを隠すように両腕で抱いて、まっかっかになってしまった御舞鈴めがけ。
「そこっ！」
　機を読み取り、流れるように格闘スタイルを変遷させた衣夢は、ずしんと踏みしめた軸足、地を割るような衝撃を、そのまま加速力へ。
　くるりと反転し、全てを乗せた背面を、弾丸のような勢いで……叩き付ける！
　これぞ必殺、『鉄山靠』！
「劈掛掌、そして八極拳……その極意を究めた者は、神さえ恐れるというわ。『八方の極遠にまで達する威力』……存分に味わえたかしら？」
「ぐええ……」
　その破壊力に、御舞鈴は息も絶え絶え。悶絶です。
　出だしはまずまず。数の優位もあり、まずは寝子高優勢のようです。