職業体験学習でお仕事しよう！｜リアクション

職業体験学習でお仕事しよう！

●お好み焼き屋『うさぎ屋』

「あんなこと書いちまったけど、大丈夫かねぇ」
　宇佐見満月は、臙脂色の『職業体験できます』ポスターを店の入り口に貼りつつ、希望者が来るか不安になった。

　重いモノを運ぶ体力、いつも笑顔を作れる気力、瞬時にお勘定を出せる暗算力が必要。

　小中学生に配布された薄緑色の冊子の紹介文にこう書いたのだが、心配事はその次の一文。
（はっきりいってキツイ仕事です、なんてあったら、敬遠されるだろうねぇ……）
　こき使い過ぎ！　とぼやきながらも、店の手伝いをしている弟の気持ちが少しわかった気がした。
　ため息をついた時、臙脂色の『職業体験中』というワッペンをつけた曖浜瑠樹と数名の体験希望者がやって来た。
「職業体験しに来たよぉ。オレ、お好み焼き好きだしねぇ」
「アンタ、配られた冊子のウチの紹介文見たのかい？」
「見たよぉ。キツイお仕事ですってあったけど、オレ頑張るよぉ。お好み焼き屋の仕事、興味あるからぁ」
「それを覚悟でここに来たのかい？　いい度胸だ。体験とはいえ、おもいっきりこき使うからね」
「わかってるよぉ。楽なお仕事なんてないからねぇ」
「そうかい、ならば体験していきな！　あたしゃ宇佐見満月、うさぎ屋の店主さ。よろしくお願いするさね♪」
「オレは曖浜瑠樹、小学３年生だよぉ。よろしくねぇ」
　
　簡単な挨拶を済ませると、職業体験学習の生徒達は一斉に身支度。
　瑠樹は鞄から緑のエプロンと大きい緑バンダナ、清潔なタオル数本を取り出す。
　白が良いと言われることを想定し、予備で白エプロンと白バンダナも持ってきてある。
「エプロンと頭を覆うバンダナの色は、何色でもいいからね」
　瑠樹の側で、泣きそうな顔の小学生の女の子が。
「どうしたのぉ？」
「……三角巾忘れてきちゃった」
　震えながらそう言う女の子に、瑠樹は予備の白バンダナを手渡す。
「これ、使うといいよぉ」
「いいの？」
「いいよぉ」
　その様子を見ていた満月は、瑠樹の気配りに感心した。
「ありがとう。これ、洗って返すね」

「体験学習始めるよ！　準備いいかい？」
　身支度が終わると、満月は全員の手と爪を念入りにチェック。
「うん、皆、爪はちゃんと切ってあるね。感心さね。ウチの仕事の説明するから、ちゃんと聞くんだよ」
　仕事は何をするのか、どんなことを自分でしていいのか。
　大事なことなので、満月の説明を良く聞きながら、瑠樹はメモをとりながら覚えることに。
（体験とはいえ、お仕事は大事だからねぇ）

「まずは仕込みを始めるよ！　包丁を使うの得意ってのいるかい？」
　瑠樹を含めた何人かが挙手。
「それじゃ、得意なのは、あたしと一緒にキャベツの千切りだ。無理そうだったら、肉や魚介類の下拵え頼むよ」
　肉と魚介類の下拵えは、料理が得意という中学生の女の子が。
「肉類とかを扱う時は、使い切りのビニール手袋使っておくれよ。食べ物にばい菌が入ったら大変だからね」
「オレ、お母さんのお手伝いで料理を作ったりしたことがあるから、キャベツ切ったりできるよ」
「頼もしいねぇ。じゃ、アンタはキャベツ担当だ」

　仕込み以外の生徒達は、店内清掃とソースセットの確認。
　うさぎ屋では、無駄を省くために注文を受けてからお好み焼き、焼きそばを焼くことにしている。
「ソースはツボのこの辺まであるか、鰹節や青海苔にダマはないか。それを皆に確認して欲しいんさ。ソースは少ないようなら補充しとくれ」
　ツボを開け、ソースの中身を見せ「ここまで入れとくれ」と指示する満月。
　瑠樹に白バンダナを貸してもらった女の子はソースの量をチェックし、少ないツボに補充。
　その他の生徒は鰹節と青海苔のチェックをしたり、店内の清掃をしたり、自分ができる仕事を。

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