とある放火魔と、白昼夢の話｜リアクション

とある放火魔と、白昼夢の話

■20:00　祈りと炎
「俺達以外にも動いている人がいる？　……分かった、その人に俺の連絡先を教えておいてくれないか。ああ、さっき放火される家を見つけた。周りの風景からして、ここで間違いないはずだ。場所をメールで送っておく。俺は合法的に火付けが出来る場所を用意する。何かあったらまた連絡してくれ」
　真央との通話を終了すると修は目の前の家の写真を撮り、メールを送信する。真央の言葉からして、他にも同じ夢を見たものがいるのだろう。何かの助けになればいいと、夢を見た者だけにわかるようにぼかしてねこったーにも投稿しておく。
（……ここ以外にも、火をつけられそうな場所があるかもしれない。念のために見回っておくか）
　家の前を離れ、危険な場所はないか探して旧市街を歩く。遠くで、拍子木の音が聞こえる。声は聞こえないものの、真央が住民に注意を呼びかけているのだろう。
　修の携帯が再び鳴った。誰かが何か見つけたかと考えて携帯を取り出すも、表示された文字は現在連絡を取り合っている仲間のものではない。しかし、出ないというわけにはいかず、修は通話ボタンを押す。
「……もしもし」
「八神か？　お前も、放火を止めようとしているのだろう？」
　電話口から流れてきたのは、双葉仄の声。
「双葉もか。情報源は、ねこったーあたりか？」
「ご明察。見てしまったものは仕方がないからな。無視するのも寝覚めが悪い。それで、やつの居場所は分かるか？」
「今、日暮が後をつけているみたいだ。ねこったーに投稿してくれている。アカウントは……」
　仄は、修が伝えたねむるのアカウント名を記憶する。
「後をつけている、ということは外にいるんだな。分かった。私はやつのアパートへ向かう。他に何か分かったら連絡してくれ」
　一方的に告げて電話を切る。無機質な電子音を聞いて、修もボタンを押した。
　そして再び歩き出す。すっかり陽は落ちているが、まだ寒くはない。見落としがないよう確認しながら、見つけた木造の倉庫の写真を撮って情報を共有しておく。もちろん、仄に伝えるのも忘れない。
「ここも危ないな」
　忘れ去られたような小さな神社。ふと目に留まったそこへ足を踏み入れると、既に先客がいた。
（――どうか見守って下さいね）
　祈りを心中で唱え、拍手を打っているのは記士郎。一礼をすると、長い茶色の髪が揺れた。
「あれ、お参りですか？」
　参拝を終えて帰ろうと振り返り、修の姿に気付くと記士郎は穏やかに笑って声を掛けた。こんな小さな神社に参拝する者が自分以外にもいたという事実に、少しだけ驚きながら。
「いえ、俺はそうではなく……もしかして、あなたも放火の夢を？」
　問いかけに首を振り、答えようとした言葉は記士郎が提げていた拍子木を見て、確信を持った疑問へと変わった。今はまだ、そう火事を警戒する季節ではない。ならば、記士郎が手にしているそれがどういう意味を持つのか……修は、真央のことを思い出していた。彼女も確か、拍子木を打ち鳴らして見回りをすると言っていたはずだ。
「ええ。見回りの途中、この神社を見つけたものですから。見守っていてくれるよう、お参りを」
　記士郎は修に向き直る。修は、携帯電話を取り出した。
「よければ、連絡先を教えてもらえますか？　何か、新しい情報があれば共有しますので」
「ええ、もちろん。……おや、このアドレスは先程後木さんから送られてきた……」
「真央が言っていた人というのはあなただったんですね。……それでは、俺は行かなければならないところがあるので、これで。何かあったら、連絡をお願いします」
「分かりました。八神さんも、気をつけて下さいね」
　記士郎の言葉に頷き、神社を写真に収めてから修は歩き出した。まだすべきことはある、修は次なる目的地に向かって歩き出していた。