とある放火魔と、白昼夢の話｜リアクション

とある放火魔と、白昼夢の話

■20:00　火に纏わる記事
　武道からの電話を受けて、陽太はアパートに急いだ。連絡通り、男の部屋に人気はない。
　アパートの周囲をまわると、窓の鍵が開いているのを見つけた。そっと窓を開けて、靴を脱いでそこから室内に侵入する。
「電気……は点けてもいいかねぃ。何かあったら武道君が連絡してくれるだろうし……ん？」
　電気のスイッチを押し、明るくなった室内を見回すと、おかしな物が目に入った。新聞を模した置物だろうか、ガラス製のそれは、照明を反射して光っている。
「なんだろ、これ……趣味、ってわけでもないよなぁ」
　陽太の目にも見覚えのある見出し、新聞であることは間違いなさそうだ。傍にしゃがみこむと、手を軽く握って叩いてみる。伝わってきたのは、硬質なガラスの感触だった。
「まあ、いいか。他に、燃えやすそうなものとか、放火に使われそうなものがあったら回収しとこうかねぃ」
　もしかしたら、自分と同じように夢を見た者がやったのかもしれない。仮に違うとしても、これならば火種にされることはないだろうと、陽太は部屋を探す。
　キッチンの棚を開けると、そこにもガラスの置物があった。マッチ箱、だろうか。こちらもガラスに変わっており、マッチとして使えそうにない。
　他にも棚を探ってみたが、ライター等の火をつけられそうなものは全てガラスに変わっていた。陽太は目を細めて考える。
（これは――オレ以外にもここに忍び込んだ人がいると見て、間違いないなぁ）
　ふと、古新聞の見出しが目についた。一面ではなく、その下に小さく書かれた文字は、『火事』と見える。ガラスに変わってしまっているため詳しい記事の内容は読むことが出来ないものの、陽太は日付を確認する。新聞に取り上げられるくらいだ、検索をすれば引っかかるだろう。
「ここは、こんなもんかな。後は、調べてみんなに報告を……」
　お邪魔しました、と心の中で呟いて部屋を後にしようとした時、ベッドの下で何かが煌いた。不思議に思って手を突っ込むと、さして大きくはない、赤い宝石が指先に触れた。見たところ、ブローチか何かだろうか。金の土台に嵌めこまれた宝石は、一人暮らしの男には似つかわしくない。
　少なくとも安くはないだろうそれを、無造作にベッドの下へ放っておくものか。妙な違和感を覚えて、陽太はそれをポケットへ突っ込んだ。
　もしも吉野の持ち物であったなら、後ほど返却すればいいだろう。窓枠を超えて外へ出ると、金髪の男――天懸に声を掛けられた。
「泥棒ってわけじゃなさそうだな。アンタも、放火を止めにきたクチか？」
「そうだけど……君も？」
「ああ。ずっと見張ってた。ねこったー見ると、他にも行動してるヤツがいるみてぇだな。良けりゃ、一緒に行動しねぇか？」
「構わんよぅ。オレはこれから、尾行してる仲間と合流する予定。ここで待ってたらきっと戻ってくるはずだから、動かない方がいいかねぃ」
　天懸は陽太と共に、先程まで自分が隠れていた塀の陰に移動する。アパートから死角になるそこで、一息ついて携帯を取り出すとねこったーに情報を投稿した。