イート・ア・ライブ｜リアクション

イート・ア・ライブ

【続く、フードバトル】

〔第六ターン〕

「よーし！　それじゃあ悠！　あたしのパンと特製ジュースを飲んでもらおうか！」
　六番手は酒浸朱蘭さん。
　どどんと差し出したのは一見ごく普通のパンと、毒々しい色のジュース。
「お！　何か凄い色のジュースだね！　パンはごく普通に見えるけど」
　言いつつ、大村くんはそのパンを食べ始めます。
「……こ、これは！」
　と、ここで、初めて大村くんがパンを食べる手を止めて目を見開きました。
「……このパンにはモイスチャーが足りないッ！」
　大村くんは叫びました。
　それに朱蘭さんはふふんと鼻をならし、
「ふふ、どうだ！　あたし特製っ、焼き加減を絶妙に調節した『食べたら異様に喉が渇くパン』はっ！」
（そのまんまだっ！）
　誰かの心の声が聞こえるようでした。
　と、そのとき。
「辛抱たまらんっ！　ジュースも頂きます！」
　大村くんは風のような速さで朱蘭さんからジュースをひったくり、そのまま一気飲みしました。
「ちょっ……それは激辛ジュースで……さすがに一気飲みは……」
　思わず叫んだ朱蘭さん。
　しかし、
「うぐごっ！　辛い、もう一杯ッ！」
　大村くんは平然とした顔でおかわりを要求しました。
「……！」
　それに朱蘭さんは喉をひきつらせて、
「……ふ、わかったよ。この勝負、あたしの負けだ」
　ふっと何かを悟ったような表情でそう言って、ふらふら外へ出ていってしまいました。
　そんな朱蘭さんを見て、
（朱蘭さん、大丈夫かな……）
　メイソン・ブリッジスくんはぽつり心の中で呟くのでした。

「このジュース、ジュースなのに辛いのよ～」
　おっと、さすがの橘明里さんも激辛ジュースには少々ダメージをうけたようです。

〔第七ターン〕

　次は七番手――メイソンくんの登場です。
「ではどうぞ」
　そう言って、大村くんと明里さんにパンを差し出すメイソンくん。
「おや、こっちも一見普通のパンだね？　でも、さっきのパンみたいに何か仕込んであるのかな？」
「いえ、そんな。僕のはちゃんとした食べ物ですから」
（……犬用だけど、ね）
　と、一瞬、メイソンくんは目を逸らします。

『それでは頂きます（なの）っ』

　二人はわずかの躊躇いも見せずそれを食べていきます。

「う～ん？　ジャーキーが固くて噛みきれないなの……」
「あ、無理して食べなくても――」
「駄目なの！　食べ物を粗末にするのはいけないことなの！」
　ちょっと気まずくなってきたメイソンくんが声をかけますが、明里さんは頑なに首を振り、ジャーキーを齧り、言葉を続けます。
「……逆にどんなパンも……ちゃんと食べれば粗末にしたことにはならないの……！　『敵』は食べ物の中ではなく『己』の中にいるのよ！」
「……っ」
　真剣にそう主張する明里さんに、メイソンくんはわずかに息を詰まらせます。
「うん、今とてもいいこと言った！　フードファイターたるものそうでなくちゃね！　ごっそさん！」
　大村くんが興奮気味に主張しながら、パンを平らげて言いました。
「……どうやら僕の負けみたいですね」
　ふぅっとやりきったように息を吐いて、メイソンくんは言いました。
（ただの物好きの集まりかと思っていたけど、みんな色々と考えてるんだね……）
　メイソンくんは奇妙な感慨を抱きながら、二人の前を辞しました。
　そして、
（そういえば、朱蘭さんはどうしているかな……？）
　自分を誘ってくれた朱蘭さんのことがふと気になって、そのままこっそりと部屋を抜けだしていきます。

〔第八ターン〕

「じゃあ次は俺かな」
　八番手は御剣刀くん。
「ほほう。僕の鼻腔を強烈に刺激するこの匂いは――」
「――くさやの匂いなの！」
　刀くんは頷きます。
「俺は俺なりにゲテモノ料理について考えてみた。人はどうして料理をするのか？　その俺なりの答えが――」
「それはともかく頂きます！」
「七文字で片づけられたっ！？」
　ガーンとショックをうける刀くんに方々から『ぽんっ』と優しく肩が叩かれます。
「だいじょうぶ！　くさやパン、臭いけどとっても美味しいなの！　レタスもシャキシャキなの！」
「うん！　よもやこんなところで豆腐ようが食べられるとは思ってなかったね！　ごっつぉさん！」
「……そ、そうか。……なら、まあよかったかな？」
（やっぱり美味しい料理は幸せにする。だから、大村と橘に美味しいと言ってもらえたんだからこれでよかったんだ）
　刀くんは自らの結果に満足し、戦いのステージを後にします。
　精霊はいまだ健在。
　ですが、刀くんの目的は無事に達成されたのでありました。

　第八ターン、終了です。

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