猫鳴館、修繕強化週間｜リアクション

猫鳴館、修繕強化週間

●プロローグ

「ん～むにゃむにゃ……朝ごはん、なに～……」
　明け方。楽しい夢を貪っている雨崎荒太郎は、両足で布団を蹴ってはねのけた。隣に寝ていた雪見大福は、その気配に気づき、寝ぼけ眼でほぼ無意識のまま布団を引き上げて掛けてやる。それから、荒太郎のお腹をぽんぽん。まるで子どもをあやすおかんみたいだ。
　ここは大福の部屋。
　先日のネズミ騒動で部屋が中破、天井にも穴が開いて（開けて？）しまった荒太郎は、幼馴染の大福の部屋に一時居候していたのだが。
「むにゃむにゃ……サンマさーん！」
　派手な寝言を叫んだかと思うと、荒太郎の左足が唸り、大福の腹を蹴る。
「むぐっ……」
　呻く大福に対して、う～んっと幸せそうに伸びをした荒太郎は、今度は身体ごと大福の上にごろりんこ。
「んっ……ちょっ……コータロー……重……っ」
「むにゃ……」
「コータロー、コータローってば」
　なんとか荒太郎の下から這い出した大福は、荒太郎の身体をごろごろと布団で簀巻にし、そのまま廊下に追い出した。
「はにゃっ……な、なに、大福？　朝？　まだ早くない？」
「早いよ……まだ起きる時間じゃないよ……」
　大福の目の下にはクマ。なんだかんだで、熟睡できなかったに違いない。
「俺もさすがに悪いかなとは思ってる。だけどコータロー寝相悪すぎだよ。寝相で腹を蹴られる俺の身にもなってくれ……」
　大福は荒太郎の肩に手を置きこう告げると、幼馴染だからこその非情さでもって、荒太郎を部屋から追い出したのであった。こうして荒太郎は大部屋に居を移すことになる。

　その頃、猫鳴館の屋根の上には。
　子泣きジジイ姿の初島優が佇んでいた。
　風は凪。
　若葉の緑がまぶしい季節。
　携帯ラジオからはn.k.ＦＭ、早朝担当お天気お姉さんの声。
「ザ……ザ……今週の寝子島の天気……おおむね晴れ……土曜日にかけては低気圧が通過するでしょう……ザ……ザ……」
　骨削瓢が屋根の破れ穴からひょいと顔をだす。
「おはよう初島はん。何してるんでぃ？」
「修繕強化週間ですぞー、骨削くん。腕が鳴ると思わないかいー？」
「ははぁ……なるほど。――初島はん、あっしにいい考えがあるですがねぇ」
　にやありと笑う瓢の背中に掛かる声。
「あんたら、悪巧みの顔になってるぜ」
「おや。草薙はん」
　いつの間に屋根に上ってきたのだろうか、草薙龍八が緑のコートをはためかせ立っている。
「俺好みの話なら噛ませてもらおうか」

　やがて、ククク……、ふふふ……、けらけら……、と三人から笑いが漏れ――。

「ふふふ……嵐の予感ですなー……」

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