白黒レインボーな秋のはじまり｜リアクション

白黒レインボーな秋のはじまり

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――さて、工芸室。
こちらでも被服室と同じように、何人かの生徒が作業をしていた。
染物の入門書を読みふけっている羽生碧南も、そんななかの一人だった。
自前で用意した白地のTシャツを、レインボー染めにしようと思い立った次第。
……とはいえ。
やってみるのは面白そうだけど、いざ七色に染めるというのはなかなかに大変そうだ。
まあ、だからと言っていつまでも入門書だけを見ていても仕方ない。
「綺麗に染まればいいな」
と一つ呟いて、染料の調整を行おうとした――その時だった。
「おや、虹色に染めたいのかい」
「えっ？」
突然の声に振り返ると、そこには妙にサイケデリックな出で立ちの女子学生が一人。
月詠である。
「ああ、うん。そうなのよ。でも、本読んでるんだけど、難しそうなのよねー」
それを聞いて、ふむと月詠。
「なら、君に虹染めのやり方を教えよう」
そう宣言したその様子は衣装もあいまって、RPGの敵だか味方だかわからないNPCのよう。
「えっ、ほんと？　ありがとう！」
これ幸いと、碧南は月詠の言葉に甘えることにした。

「用意するのは赤青黄の３つの染料だ」
「３色でいいの？」
碧南の疑問に、ああと月詠は頷く。
「まず、黄の染料を湯と酢で溶かして生地の真ん中だけ染める」
言いながら、スケッチブックにさらさらと６等分にされたシャツの絵を描く。
それぞれに、わかりやすいよう１から６までの数字が振られている。
「これで言うと、３、４、５の部分だ」
「それはわかったけど……。私、お酢とか持ってないわね」
もっともである。
学校にお酢を持ってくる人間なんて、よほどの変わり者しか居ないだろう。
「調理準備室にいけば、貸してもらえるんではないかな」
「あ、そっか。あとで白沢先生にお願いしてみよっと。ってああ、話の途中でごめんね」
気にするな、と言って月詠は話を続ける。
「染めたら、一旦濯ぐ。それから同じ要領で青を染める」
染めるのはここだ――と今度は１、２、３の部分を指す。
「そして最後に、赤で端の部分――１、５、６の部分を染める。すると各色が端で重なりあって虹色になる。最後は、少し乾かして生乾きのうちにアイロンをして出来上がりだ」
説明を聞き終えると、碧南はため息をついた。
そこには、感心が満ちている。
「なるほどー。染料を虹色に混ぜるわけじゃないのね……」
「七色を混ぜて作ろうとすると、凄まじい色合いになるからね」
ああそうそう、と月詠は注意事項をいくつか付け足しす。
「作業をするときは、生地を汚さぬようゴム手袋をしておくんだ。それから、染料は青を少し濃くするといい」
「ん、わかったわ。ありがとうね！」
――ということで、碧南はサイケデリック芸術家の助言に従って作業を始めることにした。

まっさらなスニーカーを手に、刀は工芸室へやってきた。
このスニーカーを塗れば、彼のテーマ衣装は完成だ。
しかし、彼の足は工芸室に入るやいなや止まることになった。
「ッ！？」
瞳を見開いた刀の手から、スニーカーがぽろりと力無く落ちる。
「そ、そんな……これは……ッ！」
スニーカーを持っていた手を、いや全身を戦慄かせて彼が凝視するものは――。
レインボーカラーのサンマさん、だった。
「……アリなんだ」
ぽつりと、驚愕に満ちた呟きがこぼれる。
ぐっ、と拳を握り締める刀。
「――よし、予定変更だ！」
スニーカーはそのままで、レインボーサンマさんの着ぐるみを作ろう！
取り落としたスニーカーを拾い上げ、『加速』もかくやのスピードで被服室へと逆走した。