ワニかみパレード☆｜リアクション

ワニかみパレード☆

【そろそろおいとまの時間】

「ただいま、もふもふ……」
　砂浜でお留守番していたアンゴラうさぎのぬいぐるみの元へ、飛吹勘助は戻ってきた。
　最初はびっくりしたけれど、かわいいワニさんと過ごす海中での時間は、心癒やされるひとときだった。
　髪を拭きながら荷物をまとめていると、ひかえめに名前を呼ばれた。
「……飛吹くん？」
　驚いて振り向くと、以前夢の中で出会った女の子が、そこにいた。
　帰路につこうとして通りかかった、遠野まほろだ。
「……あ、……遠野……さん……？」
　動揺して視線をさまよわせた勘助だったが、すぐにぎくしゃくと会釈をした。
　頬が紅潮する。懐かしさと喜びが胸をひたした。
「ひさしぶり……です。その、元気そうで、よかった……」
「うん、飛吹くんも。……もしかして、そのうさぎさんがもふもふ？」
「そ、そう……、です……」
「うわぁ、かわいいね」
　柔らかな口調で、まほろは言った。
「私もね、ワニさんのぬいぐるみを作りたいなって考えていたところなの。ワニさん、かわいいから」
「は、はい。ワニさん……、かわいいです……」
「もふもふに負けないくらい、かわいいぬいぐるみが作れたらいいなぁ」
　和やかに言葉を交わす二人の足下を、ワニさんが尾を振りながら歩いていった。

　日が沈み、稲井いおねも、ワニさんたちに別れを告げた。
「ワニさんたち……、今日は素敵な骨を見せてくれて、ありがとうございました」
　手のひらには、まだワニさんたちを抱きしめた感触が残っている。
「内側だけでなく、ワニさんたちは外側も素敵でしたよ……」
　浜辺を見渡し、いおねはほかほかと温かくなった胸を押さえた。
「ワニさんたちが、仲良くしてくれて嬉しかったのですよ」
　大きさも、鳴き声も、それに模様も、とてもかわいいワニさんたちだった。
　いおねは、惜しみながらも、ワニさんたちに手を振った。
「……ばいばい、またどこかで会おうね」
　海岸に、ワニさんの泣き声と、波の音が響いていた。

　夜が更け、肌寒い深夜となってもまだ、八神修は浜辺でワニさんたちとともにいた。
　発生の原因は突き止められなかったものの、ワニさんと触れあえる貴重な時間を過ごした。
「……そろそろ、帰るのか？」
　１匹２匹と、ワニが海へ帰っていく。
　いつしか、浜辺にはほとんど、ワニさんの姿は見えなくなっていた。
　月明かりが照らすなか、修は最後の１匹がいなくなるまで、ワニさんを見送った。
「猫の国のように、どこかにワニの国もあるんだろうな」
　ワニさんたちはそこへ帰って、幸せに暮らすのだと信じたかった。
　ワニのいない浜辺で、修は「よし」と、きびすを返した。
　別れを惜しむのはもう終わりだ。
　日常に戻り、修も寮へ帰ることにした。

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