ドレスに願いをかけて｜リアクション

ドレスに願いをかけて

●チェンジ！
　一足先に貸衣装部屋へ入っていった神無たちを追うようにして、御薗井Ｅセレッソと早坂恩もまた衣装を選びにいく。
　衣装部屋にいたるまでの廊下はランプのあたたかい光で満たされていて、セレッソのテンションはずっと上がりっぱなしだ。
「本当に素敵なお店ナノ！　センパイと一緒に来れてよかったワ！」
　早く踊りたいといった様子で早速、恩に似合いそうなパーティの服を探しはじめる。
　セレッソが足を止めた先には、男性むけの衣装一式を着たマネキンがあった。
　艶やかな黒地のテイルコートの下は白のベストでしっかり締めており、それだけを見ていればいかにも正式な礼装といった感じだ。
　けれど、胸元に藤色のアスコットタイがやわらかさを演出していて、上品さと華やかさ、パーティに求められる要素のどちらをも満たしていた。
　これをもし、恩が着こなして歩いていたらどんなに優雅な姿が見れることだろう。
　残念ながら服の丈が恩にはあわないのだが、それでもこれを纏った恩の姿を見てみたくて仕方がなかった。
「センパイにはこういうの似合うと思うノ！　大人っぽくて素敵ヨ！」
　ぐいっと袖をつかんだつもりだったのだが、手の中にあったはずの生地の手触りがこつぜんと消えてしまう。
「あらら、セレッソちゃん！　いつ着替えたのかしら？」
　恩の言葉を聞き、ふしぎに思って鏡を見る。
　自分のテイルコート姿を見て飛び上がったセレッソの髪が、ぽーんとはねた。
「ワタシが着ちゃってるノ！　うっかりナノ！」
「でもセレッソちゃんには似合うわねえ、貴公子みたいだわ」
　そういって笑っていた恩の手が、手近なところにあったドレスに触れた。
「えへへー、ありがとナノ！　でも恩センパイのドレス姿こそとてもキレーだワ！」
「あら、嬉しい……ドレス姿？？」
　気づいた時には既に遅し、恩もまた変身を遂げていた。
　もはやとりかえっこ状態だ。
　しかし、もともと線の細い体格だったこともあって、ドレスは違和感なくマッチしていた。
　きめ細かい生地の上を三つ編みにした髪が流れ、透き通るように白い肌は乙女顔負けの美貌をたたえている。
「今日はワタシがリード役ネ！　頑張って恩センパイをエスコートするノ！」
　上機嫌なドヤ顔。これでは待ったといっても聞いてくれそうもない。
　張り切るセレッソに手を引かれ、恩もパーティ会場へと向かっていった。