ドレスに願いをかけて｜リアクション

ドレスに願いをかけて

●あの日の返事を
　デートをしませんか、って言ってるんです――。
　そんな言葉とともにホタルのとびかう川辺へと誘われたのが、
　つい最近のことともだいぶ前のこととも思える。
　動物たちの診察を終え、日月透はメールの受信ランプがついていることに気がついた。
「……舞踏会のお誘い、ですか」
　メールの送信主は望月神無。
　末尾には、ねこったーでの告知URLが記載されていた。
　川辺で真意を問われた日以来、神無には距離を置かれたと感じていた。
　あの日、耳元でささやいた言葉ははたして彼女の心に届いたのか。
　それとも――そのまま拒まれ、川の流れにとけ消えてしまったのだろうか。
　幸い、今日の午後は早めに仕事を切り上げられそうだ。
「すぐ、支度をしましょう」
　誘われた理由ももちろん気になるが、神無にはどうしても先日の答えを聞いておきたかった。

　ステラ・マリスには、すでに神無の姿があった。
　透を待つ間、指がせわしなくメールの送受信ログをたどる。
　喜んで、との返事こそあったものの、来てくれるかどうか不安に思う気持ちは募る。
　それでも思いを伝えるなら今しかないと、そう思ったのだ。

　ホール前のロビーには、よく知った友人の姿もある。
「あ！　神無クンも来たノネ！」
　神無と同じく熱烈なチョコレート党で、たびたびチョコ談義で盛り上がる御薗井Ｅセレッソ。
　彼女もまた、パートナーと誘い合わせてここへやって来たようだ。
「御薗井も来てたのか。それと、一緒にいるのは……」
　傍らにいる人物の名を尋ねようとしたところ、相手側から名乗ってきた。
「あらあら、セレッソちゃんのご友人なのね？　私、早坂恩っていうの」
「えへへ、今日は恩センパイといっしょナノ！　でも神無クンともいっぱいおしゃべりしたいノ！」
　ぽんぽんと髪の毛をはずませてはしゃぐセレッソ。
　心から楽しみにしている様子が伝わってきて、微笑ましい。
「お互い楽しいパーティになるといいな。そういえばこの前、新しい洋菓子屋が開いてるのを見かけたんだが――」
　おしゃべりに華が咲きそうになったところで、開くドアの音に背後をふりかえる。
「……日月先生」
　待ちわびた人物の登場。けれど、本当にきちんと伝えられるだろうか。
　無意識のうちに、神無は姿勢を正していた。

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